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高松高等裁判所 昭和41年(ネ)191号 判決 1970年1月22日

控訴人(原告) 塩田嘉吉 (被告) 日本国有鉄道

被控訴人(被告) 日本国有鉄道 (原告) 高須賀治外七名

主文

控訴人塩田嘉吉(第一審原告)の本件控訴を棄却する。

控訴人兼被控訴人日本国有鉄道(第一審被告)の控訴に基づき、原判決中被控訴人高須賀治、同清家和俊(何れも第一審原告)に関する部分を取消す。

被控訴人高須賀治、同清家和俊(何れも第一審原告)の請求を何れも棄却する。

控訴人兼被控訴人日本国有鉄道(第一審被告)の被控訴人長戸幸吉、同大谷秀夫、同阿部与幸、同堀川勇喜、同遠藤利男、同藤松春好(何れも第一審原告)に対する各控訴を何れも棄却する。

控訴人塩田嘉吉(第一審原告)と被控訴人兼控訴人日本国有鉄道(第一審被告)との間に生じた当審訴訟費用は控訴人塩田嘉吉(第一審原告)の負担とし、被控訴人高須賀治、同清家和俊(何れも第一審原告)と被控訴人兼控訴人日本国有鉄道(第一審被告)との間に生じた第一、第二審訴訟費用は右被控訴人高須賀等の負担とし、被控訴人長戸幸吉、同大谷秀夫、同阿部与幸、同堀川勇喜、同遠藤利男、同藤松春好(何れも第一審原告)と控訴人兼被控訴人日本国有鉄道との間に生じた当審訴訟費用は控訴人兼被控訴人日本国有鉄道(第一審被告)の負担とする。

事実

控訴人塩田嘉吉(第一審原告、以下単に一審原告塩田という)訴訟代理人は、「原判決中一審原告塩田敗訴の部分を取消す。被控訴人兼控訴人日本国有鉄道(第一審被告、以下単に一審被告又は国鉄という)が昭和三七年四月二八日付を以てなした一審原告塩田に対する一〇か月の懲戒停職処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共一審被告の負担とする。」との判決を求めた。

一審被告訴訟代理人は、一審原告塩田の控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告塩田の負担とする。」との判決を求め、被控訴人高須賀治、同清家和俊、同大谷秀夫、同遠藤利男、同阿部与幸、同長戸幸吉、同堀川勇喜、同藤松春好(何れも第一審原告、以下単に一審原告高須賀等という)に対する控訴につき、「原判決中一審被告敗訴の部分を取消す。右一審原告高須賀等の請求を何れも棄却する。訴訟費用は第一、二審共一審原告高須賀等の負担とする。」との判決を求めた。

右一審原告高須賀等訴訟代理人は「一審被告の控訴を棄却する。控訴費用は一審被告の負担とする。」との決判を求めた。

第一(一審原告等の請求原因)

一  一審被告は日本国有鉄道法(以下単に国鉄法という)に基づいて鉄道事業等を経営する公共企業体であり、一審原告等は何れも一審被告に職員として雇傭されているもので右職員中動力車に関係ある職員を以て組織する国鉄動力車労働組合(以下単に動力車労組という)の組合員であり、昭和三六年七月以降一審原告塩田は同労組四国地方本部(以下単に地本又は四国地本という)の執行委員長、同高須賀は副執行委員長、同清家は書記長の地位にあり、同年六月以降一審原告大谷は四国地本徳島支部執行委員長、同遠藤は副執行委員長、同阿部は書記長の地位にあり、同年五月以降一審原告長戸は同地本高知支部執行委員長、同堀川は副執行委員長、同藤松は書記長の地位にある。

二  一審被告は昭和三七年四月二八日付を以て国鉄法三一条一項一号日本国有鉄道懲戒規定(以下単に懲戒規定という)六条一七号に基づき一審原告塩田、同長戸に対し各一〇か月、同大谷に対し八か月、同高須賀、同清家、同阿部、同堀川に対し各三か月、同遠藤、同藤松に対し各一か月の懲戒停職処分をなした。而して右各処分の理由とするところは、一審原告塩田は四国地本執行委員長として順法闘争(安全運転)を指令し所定運転時分を変更させるような内容を指示し実行させて、列車の遅延、運転休止等を生ぜしめ、同高須賀、同清家は四国地本副執行委員長又は書記長として右順法闘争の実施計画に参画し、列車遅延等の事態を惹起させる起因をつくり、同大谷は四国地本徳島支部執行委員長として右闘争の実施を細部に亘つて指導し、列車遅延の事態を生ぜしめ、同遠藤、同阿部は同支部副執行委員長又は書記長として右闘争の実施計画に参画して列車遅延の事態を惹起せしめる起因をつくり、同長戸は四国地本高知支部執行委員長として右闘争の実施を細部に亘つて指導し、列車の遅延並びに運休の事態を生ぜしめ、同堀川、同藤松は同支部副執行委員長又は書記長として右闘争の実施計画に参画し、列車遅延等の事態を惹起させる起因をつくり、以て何れも一審被告の正常な業務の運営を阻害したものである、というにある。

三  然しながら一審原告等は右懲戒規定六条一七号に該当するが如き行為をしていないから一審被告のなした本件懲戒処分は無効である。

第二(一審被告の答弁並びに主張)

一  一審原告等の請求原因事実中一、二項の事実は認める。

二  本件懲戒処分は公法上の処分である。即ち一審被告は公共団体たる公法人であり(国鉄法二条、尚同法五条、一九条、三九条の二以下、五〇条、五二条等の規定は総て一審被告が公共団体たる実体を有することを示す規定である。)而して国鉄の職員は憲法一五条二項にいう全体の奉仕者たる公務員としての法的性格を有するのであり、斯る特質より生ずる各種の法規制から、公共団体とその職員との関係は公法関係であることは極めて明白であり、現に国鉄法には職員の身分服務に関して国家公務員法の規定と略同様の規定が存するのであり、又国鉄職員に対し懲戒の権限を有する者は法人たる国鉄ではなくその総裁であることは、国鉄とその職員との関係が公法上のものであることの有力な一資料であり、この場合の総裁は行政庁としての資格を有するものである。以上の如く本件懲戒処分は公法上の処分であるから重大明白な瑕疵のない限り当然無効となるものではない。

三  一審被告が本件懲戒処分をなした理由は次の通りである。

1  一審原告等は夫々四国地本、同徳島支部、同高知支部の所謂三役の地位にあつたところ、一審原告塩田、同高須賀、同清家の三名は、年末手当、定期昇給一〇〇パーセント獲得及び検修合理化反対等の一審被告に対する要求を実効あらしめる為、昭和三六年一一月下旬協議の上、四国地本所属の各支部をして同年一二月五日から八日迄の間機関車乗務員等をして安全運転と称する順法闘争を行なわしめることを決定し、同年一一月二五日付四国地本指令一四号を以て傘下各支部執行委員長宛に右決定の趣旨を指令し、更に同年一二月二日三役会議により右指令一四号に基づく安全運転闘争実施の細目を次の通り決定し四国地本指令一五号として同日電話で、又同月四日文書で傘下支部執行委員長宛に指令した。

(1) 要注踏切通過の際は必ず速度を時速四五粁以下に減速すること、右要注踏切とは(イ)見通し距離一〇〇米以下の踏切、(ロ)時速七五粁以上の速度で通過する踏切、(ハ)交通量特に頻繁(交通量換算八、〇〇〇人)な踏切、(ニ)その他支部で特に危険と認めた踏切、をいう。

(2) 線路上又はその付近に人影又は車などを発見した場合は必ず列車を警戒速度(時速二五粁)以下に減速すること、線路上又はその付近とは犬走り以内とすること。

(3) 列車が遅延しても回復運転を行なわないこと。

(4) 右安全運転は同年一二月五日から同月八日まで実施すること。

(5) 本件安全運転による列車の遅延は乗務員の責任ではないので事前に現場長又は局長に申入れを行なつておくこと。

2  右地本指令を受けた一審原告大谷は同年一二月二日同支部幹部を集めて緊急支部執行委員会を開いてこれを検討し、一審原告大谷、同遠藤、同阿部等は右指令の実施を確認し、右実施の為の細部基準として同支部所属の乗務員の乗務区域にある踏切の中前記地本指令一五号の(1)の(ハ)に該当する踏切三二か所を選定し(この中には多数の警報機付踏切〔第三種踏切〕が含まれている。)又支部で特に危険と認める踏切についての解釈を決定しその他は右一五号指令と同趣旨の内容の決定をし、一審原告大谷はこれを徳島支部指令として同月四日徳島気動車区事務所前の組合掲示板に掲示し、且同一内容の書面を組合員たる乗務員に配布して右闘争の実施を指令し、さらに一審原告大谷は同月五日徳島気動車区乗務員詰所において居合せた乗務員らに対し前記安全運転の実施方法を説明してその実施を指示した。

3  又前記地本指令を受けた一審原告長戸は同年一二月三日支部拡大執行委員会を開いて協議し、一審原告長戸、同堀川、同藤松らは右指令の実施を確認し、同支部に於ける右闘争の実施要領として同支部所属の乗務員の乗務区域内にある踏切中前記一五号指令の(1)の(イ)乃至(二)に該当する踏切として上り列車関係で五二か所、下り列車関係で六〇か所の踏切(何れもこの中には多数の警報機付踏切が含まれる。)を選定し、又右指令(2)の「線路上又はその付近に人影又は車等を発見した場合」につき保線係員の線路工事等の表示のある場合を除くとしたほかは右指令と同趣旨の内容の決定をし、これを高知支部指令として高知機関区事務所前の組合掲示板に掲示し、更に同月五日早朝から右支部指令内容を記載した書面を組合員たる乗務員に配布して右闘争の実施を指令し、さらに一審原告長戸は同日午後零時一五分ごろから午後三時までの間高知機関区講習室内で同支部所属組合員約六〇名を集め右安全運転の実施方法を説明してその実施を指示した。

4  一審被告の四国支社(以下単に四国支社という)に於ては右安全運転は許されないものであるとし、同年一二月二日同支社労働課長亀山義一、同車務課長真鍋是より一審原告塩田、同高須賀、同清家からの安全運転の申出に対して自重を要望し、違法事態を生じて処分の対象とならぬよう警告し、同月七日には同支社長水野正元からも書面(但し同月六日付書面)を以て右塩田に対し安全運転の中止方を要望すると共に違法事態が生じた場合は厳重に処分すべき旨をも警告した。徳島気動車区に於ては同区々長皆見照一は同月四日一審原告大谷、同阿部からの安全運転の通告に対し右安全運転闘争の中止方を説得し、翌五日には安全運転は行過ぎであり平常通りの列車運行をせられたい旨記載した指示書を同区運転当宿室に掲示して各乗務員に通達し、更に同月六日にも右大谷、阿部及び同日徳島気動車区に来ていた一審原告高須賀等に対して処分等の犠牲者の出ないよう慎重に行動するよう説得した。高知機関区に於ても、同月五日同機関区長より一審原告長戸、同堀川、同藤松らからの安全運転の申出に対し、平常通りの運転を要望すると共に安全運転を実施すればその責任を追及せざるを得ない旨警告した。然るに徳島、高知両支部に於ては同年一二月五日から八日までの間右安全運転闘争が実施され、その為徳島気動車区及び高知機関区に於て夫々原判決添付列車遅延状況一覧表記載の通り列車の遅延を生じ、又高知機関区に於ける同月七日の列車遅延の為同日第六七九D旅客列車は、高知、土佐久礼駅間の運転を休止するなど、列車ダイヤは著しく混乱し、四国支社に於ける業務の正常な運営が阻害せられた。

5  国鉄は輸送事業の使命である安全、迅速、正確な輸送を行なう為安全の確保に関する規程、運転取扱心得(以下単に運心という)、国鉄職員服務規程(以下単に服務規程という)等種々の規定を設けているところ、右運心には二九条「列車は定められた運転時刻により運転するのを原則とする。」五一条「機関士は列車が遅延した時は許された速度の範囲内でこれを回復することに努めなければならない。」と規定され、又右服務規程五条には「職員は職務を行なうに際しては迅速正確を旨とし常に関係員相互の連絡を図り協力しなければならない」と規定されているのであり、そして気動車区等各区の区長らは列車の正常な連行を確保する為に右規程等に則つて平素乗務員に対し運転に関する指導、指示を行ない、各乗務員等もこれらの規定、指示を遵守しこれを励行して列車の運転に従事しているのである。(これを基準運転という)そして乗務員は運転中障害物が線路内又はその付近にある場合にも、その位置、姿勢挙動その他の微表から判断して、その危険性、緊急性に応じ列車の停止措置、減速措置等を講ずればよいのである。然るに一審原告等が決議してなした本件安全運転は、所謂要注踏切を通過する場合、現実の危険(線路内に通行人その他の障害物が現われるような事情があり、これらの障害物が列車に衝突する虞れがあるような状態)がない場合にも画一的に列車の速度を四五粁以下に減速し、又犬走り以内に人影等を発見した場合にはその位置、姿勢、挙動等から現実の危険を覚知しない場合にも画一的に列車の速度を二五粁以下に減速するというものであり、又その結果列車が遅延しても許された速度の範囲内での回復運転もしないというものであつて、それは単に前記各規定に違反しているというにとどまらず、前記の所謂基準運転を排してこれと異なる新たな運転方法を強行し国鉄に於ける正規の秩序と異なる別個の秩序を強行するものである。凡そ鉄道事業に於ける業務の遂行は統一した指揮の下に統一した方針に基づいて実施されて始めて安全が確保されるのであるから本件安全運転の如く、一部の職員からなる労働組合の特別の指令指示のもとに業務が遂行されることはそれ自体危険性を蔵するものである。以上の如く一審原告等が決議してなさしめた本件安全運転闘争は、前記諸規定に違反し、国鉄の企業秩序を破る不当な行為であり、又斯る安全運転を共謀し指令することは公共企業体等労働関係法(以下単に公労法という)一七条一項によつて禁止されているものであり、更に一審原告等は労働組合の幹部として、組合員たる乗務員が前記の如き違法な行為に出るときはこれを阻止すべき義務があるのに阻止しなかつたのであり、更に本件安全運転闘争については動力車労組本部より各地方本部宛に指令が発せられたが、四国地本を除くその他の地方本部に於ては事実上積極的な行動は現われなかつたのに拘らず、一審原告塩田、同高須賀、同清家等が幹部である四国地本のみがその機関決定の上積極的な行動がとられ、又四国地本の前記指令は所属各支部に発せられているのに、その他の一審原告等が幹部である徳島、高知各支部のみがその機関決定の上積極的な行動に出ているのである。以上の行為は懲戒規定六条一七号の「著しく不都合な行為」に該当するので、一審被告は国鉄法三一条一項一号により本件懲戒処分を行なつたものである。

なお一審原告遠藤は仮りに前記昭和三六年一二月二日の徳島支部緊急執行委員会に出席していなかつたとしても、同原告は当時徳島支部が本件安全運転闘争の指令を実施すること及びこれにより一審被告の業務の正当な運営が阻害されることを知悉していたのであるから組合幹部としてその実施を阻止するか、あるいはその役職を辞するとかの措置をとるべきであるのに、何らの措置をもとらずして前記の如き結果を招来したのであるから、同原告遠藤は右支部の幹部としてその責を負うべきことは当然である。

第三(一審被告の主張に対する一審原告等の認否並びに主張)

一  一審被告の主張(第二の三)に対する認否

右主張1の事実中一審原告塩田名を以て地本指令一四号、一五号を各支部執行委員長宛に発したこと、同2の事実中一審原告大谷が地本指令第一四、第一五号を受領したこと、同一二月二日徳島気動車区講習室において徳島支部緊急執行委員会が開かれたこと、右委員会において四国地本指令の実施を確認し、同支部における実施の具体策を討議し細部基準を決定したこと、同月五日一審原告大谷が乗務員に対し安全運転の実施方法を説明し実施を指示したこと、同3の事実中高知支部に於ける闘争の実施要領の内容の点を除くその余の事実は何れもこれを認める。一審原告遠藤は徳島支部の緊急支部執行委員会開催当日は公休日であつた為同委員会に出席しなかつた。同4の事実中一審原告塩田が昭和三六年一二月七日夜四国支社長名義の警告書(同月六日付のもの)を受取つたこと、徳島気動車区皆見照一区長が同月五日指示書を掲出したこと、同月五日から八日まで徳島気動車区及び高知機関区に於て安全運転が実施され、原判決添付列車遅延状況一覧表記載の通り列車遅延の生じたこと、以上の点は何れも認めるがその余の事実は否認する。

二  本件安全運転をなすに至つた経緯

1  一審原告等の加入する動力車労組は国鉄の動力車に関係のある職員で組織され、組合員の労働条件の維持改善、社会的経済的地位の向上等を目的とし、結成以来労働条件の維持改善の重要な一環として運転の安全確保の為努力し国鉄当局に対しても種々の要求をして来たものであり、四国地本は四国支社管内の動力車に関係のある職員で組織され前記目的の為積極的に活動して来たものである。

2  四国支社管内に於ては昭和三〇年に気動車二輛が導入されて以来、同三一年、三二年各八輛、三三年二五輛、三四年三二輛、三五年九八輛、三六年六輛、三七年四五輛と大量に導入され、これによつて列車のスピードアツプと列車密度の増大とがもたらされたが、これは四国支社長の「待たずに乗れる列車」という構想に表わされているように国鉄の政策であり、これに伴い昭和三四年度以降四国支社管内における踏切事故件数は激増し、同三六年度は前年度に比し事故件数に於て三三件、死傷者数に於て三一名夫々増加するに至つた。その原因は一審被告に於て右スピードアツプ等に伴う要員の確保、保安設備の改善等運転の安全を確保する為の借置をとらず車輛投入に重点を置き過ぎたことに起因する。即ち国鉄全体の昭和三六年度踏切改善費は二五億円であり、国鉄には九支社、二七鉄道管理局があるから、一支社平均は二億七、〇〇〇万円、一鉄道管理局平均は九、〇〇〇万円となる。然るに四国は一支社でありながら、当初の予算額は三、〇〇〇万円、追加分を入れても六、〇〇〇万円であつて、一鉄道管理局当りの平均額よりも少ないのである。又同年二月当時四国支社の佐長列車課長補佐は同支社管内には警報機の設置を要する危険な第四種踏切(無警報機踏切)が六四か所あり、踏切対策五か年計画によりこれを三種化する(警報機のある踏切を第三種踏切という)旨説明していたが(その後列車速度の増大、交通量の増加に伴い本件安全運転当時においては危険踏切は約一〇〇か所に上つていた。)同年中に三種化されたのは一一か所に過ぎない。尚同管内で昭和三三年から三六年までの間に行なわれた踏切改良工事(踏切道拡張工事は却つて危険であるからこの工事を除く)は昭和三三年七か所、三四年、三五年各八か所、三六年右一一か所に過ぎない。因みに昭和三六年当時同支社管内で警報機の取付工事を行なうのに一か所約八〇万円であり、他方気動車一輛の価格は当時約二、〇〇〇万円であつたから、六四か所の第四種踏切を三種化するには気動車三輛分の資金で足るわけである。

四国地本は気動車の増加に伴い四国支社に対し屡々要員の増加、設備の改善をめぐつて交渉を重ねて来たのであるが、当局側は誠意のある措置をとらなかつた。その後昭和三六年九月二六日に支社との団体交渉の結果「支社は踏切保安設備については今後共充分努力する。列車速度の向上に伴う車輛の保安設備については更に努力するが、当面デイーゼルカー準急にバンバーを取付ける」等の協定並びに付属覚書及び付属了解事項についての合意(以下単に協定という)が成立したが、その内容は気休め程度のものであり、而も当局は右協定に基づくバンバーも翌年三月から漸く取付け始めたのであり、又以前の団体交渉で既に合意の成立していた運転席前面ガラスの強化ガラスとの取替については、右昭和三六年九月二六日の交渉当時当局は全車輛について取替を完了している旨説明していたが、その後同年一〇月二四日に、上りD・C六二列車が予讃線新居浜、多喜浜間を進行中、約三〇〇瓦の夜鷹が運転席前面に衝突してガラスが割れ乗務員が負傷するという事故が起こり調査したところ、他にも強化ガラスとの取替未了の車輛のあることが判明したのであつて、これをみても当局がいかに安全設備に意を用いていなかつたかが判る。

3  以上の如き経緯の中で同年一一月一七日福岡高等裁判所が所謂筑肥線事件について控訴棄却(原審有罪)の判決を言渡したが、右事件の内容は、国鉄機関士である被告人がデイゼル動車を運転し時速五〇粁で進行中前方約一八〇米の軌道右側の右軌条から約二米の地点(通称犬走りといわれ軌道の砂利敷の直ぐ横の草むらの中)に当時満一年九か月の幼児がたたずんでいるのを発見したが、注意警笛を数秒間吹鳴しただけで同一速度で進行し幼児との距離が一三米余に迫つた時、幼児が突然軌道上に這い上つて来た為これに傷害を与えたというものであるが、同判決はその理由中で「幼児は警笛の意味を理解して危険を避ける能力に欠け、自らを危険にさらす行動に出たり、又至近距離を轟音を発して通過するデイーゼル動車に畏怖狼狽し、或は車の風圧によつて自らを危険にさらす虞れのあることはデイーゼル動車運転の乗務に従事する者は通常予想すべきものであるから、右運転者としては所論のように被害者が車と接触しない位置に居たとしても警笛を吹鳴して注意を与え被害者がこれに気付いたのみでは足りず停車又は減速の処置を講ずる乗務上の注意義務があるものと解するのが相当である。したがつて右注意義務を守ることにより車が一旦停車するような事態が生じ高速度交通機関としての機能を果し得ない結果となつても止むを得ないところ」である旨判示したが、右判決は全国の乗務員に大きな衝撃を与えた。

4  動力車労組中央執行委員会は踏切等の事故の増加は国鉄の近代化、合理化政策の矛盾であり、また昭和三六年一〇月からの白紙ダイヤ改正実施方針の生み出した矛盾であるとして、国鉄の経営、設備投資政策を追求すると共に、具体的には踏切道の安全設備、動力車前部の補強等を要求し、これを国会における踏切保安法等の制定のための動きと結合させ合理化反対闘争の中で大きな位置付けを与え、右要求の為の闘いを発展させるとの方針を決定し、同年一一月二〇日中央執行委員長車田守名を以て各地本執行委員長宛指令一六号(以下本部指令一六号という)を発し、一二月五日から八日までの間に一日全支部が現場長との集団交渉をなし、且順法闘争を行なうこと、順法闘争は乗務員を対象とし実施事項は安全運転とすること、特に踏切事故の激発に伴い踏切にかかる列車運転は人命を守ることを基本とする列車の安全確保であるが、指導は効果をあげるように実施すること等を指令した。そして翌二一日国鉄総裁に対し踏切事故防止についてと題する申入(動力車申一八号)をなしたが、その内容は踏切事故は減少しないのみか益々増加の状態であり、動力近代化の推進により大量の気動車が投入され、これによる軽量車輛の前頭部操縦とスピードアツプは自動車等との接触によりたちまち脱線転覆の事故となり乗務員と旅客の死傷事故を惹起する。又事故により乗務員が刑事責仕を問われる事態も起つている。動力車労組としては安全輸送の完遂と人命を守る立場から、危険な踏切の通過に際しては安全な範囲での運転を考慮せざるを得ない、とした上、(1)第四種踏切の整理統合と三種化を行なうこと。(2)交通頻繁な踏切を第一種踏切とすること。(3)電車、気動車の前頭部補強について抜本的な措置をとること。(4)死傷事故発生の場合の刑事責仕について。(5)踏切事故対策についての今後の方針について。以上の事項について当局の対策並びに意見を明らかにされたい、というものであつた。然しこれに対して当局は具体策を示さず、誠意が認められなかつた。

5  本部支令一六号を受けた四国地本は同年一一月二七日執行委員会を開いて右指令の実施を確認し、各支部に地本執行委員を派遣して安全運転を指導すること、世論対策として踏切の実状、安全運転をせざるを得ない実状を宣伝し一般国民の理解と協力を求めること、その実施細目については本部指令を得た上で三役に一任する旨決定した。そして同日午後地本執行委員らは四国支社長ら当局側と会見し踏切等における事故防止についての具体策を話合つたが当局側から誠意ある回答が得られなかつたので、同日本部指令一六号と同旨の地本指令一四号を傘下各支部執行委員長宛に発出したものである。

6  続いて同年一一月二九日中央執行委員長より各地本執行委員長ら宛に本部指令一七号が発出せられた。その内容は安全運転闘争を具体的に指示したもので、中央執行委員会の情勢判断及び安全運転の評価を行ない、安全運転の闘いは年末闘争を基点として明年春闘に発展させる展望で長期的な闘いを構えるものとした上、その具体的実施方法として、

(A) 交通頻繁な踏切道で要注踏切通過の際は安全の為速度を低下して運転する。この場合注意運転速度四五粁以下とする。尚要注踏切の指定については地本又は支部できめる。

(B) 線路上又はその付近に人影又は車などを発見した場合は警戒速度として二五粁以下に減速し、危険と認めた場合は直ちに停車する。

(C) 安全運転による列車遅延の回復運転は、現在の列車密度や設備状況では事故の原因となるのでこれを行なわない。

とし、尚一二月八日以降の行動は右安全運転を継続して実施する。等というものである。

7  右指令を受けた四国地本では同年一二月二日三役会議を開いて右指令の実施を確認し、一審原告塩田名で傘下各支部執行委員長宛に地本指令一五号を発出した。その内容は要注踏切として(イ)見通し距離一〇〇米以下の踏切、(ロ)時速七五粁以上の速度で通過する踏切、(ハ)交通量特に頻繁(交通量換算八、〇〇〇人)な踏切、(ニ)その他支部で特に危険と認める踏切を指定し、又本部指令一七号にいう「線路上又はその付近」を筑肥線事件判決の判示する注意義務の内容を考慮して「犬走り以内とする」旨を明らかにした以外は右本部指令と同様である。尚この危険踏切指定基準は昭和二七年六月一八日付輸保第一〇一号「踏切道の整備について」と題する運輸総局長通達(以下単に輸保一〇一号通達という)を参考とし、保安施設を要する踏切の基準(見通し距離、交通量、列車回数等)を考慮に入れて慎重に決定したものであつて恣意的に行なつたものではない。

8  同日地本三役は四国支社亀山労働課長、真鍋車務課長に会見し、筑肥線事件判決の示した注意義務に則つた真に安全な運転方法の基準を示すよう要求したが、「国鉄九〇年の経験とかんを生かしてやつて貰いたい」というのみで運転の安全確保について誠意ある回答は得られず、安全運転実施の説明に対しては「自分らとしては何ともいえないが、貴方達としてはやらざるを得ないだろうなあ」とのことであつた。

以上の如く動力車労組は運転の安全確保、踏切保安設備の改善について一審被告との間に交渉、協議を尽したが、一審被告に誠意ある態度が認められず解決がはかられなかつたので、一審原告らは自己及び公衆の生命財産を守る為やむなく本部指令に従い本件安全運転をなすに至つたものであつて、一審被告主張の如く単に年末手当等の要求の為に本件闘争をなしたものではない。

三  本件安全運転闘争は懲戒規定六条一七号に該当しない。

1  本件安全運転は前項に詳述した如く団体交渉等を通じて踏切保安設備の改善等につき十分交渉をつくしたが、当局に誠意がなく、乗務員及び公衆の生命財産の安全を確保する為やむなくなされたものであつて、その動機、目的が正当である。

2  本件安全運転闘争は国鉄の安全諸規定及び国鉄交通事故判例の判旨に忠実に従つたものである。即ち一審被告の設けた安全の確保に関する規程(昭和二六年六月二八日国鉄総裁達三〇七号)の綱領1では「安全は輸送業務の最大の使命である。」とし、同5では「疑わしいときは手落ちなく考えて最も安全と認められるみちを採らなければならない」と規定し、又右規程第六条、第七条、第一六条、第一七条に於て夫々安全を最も重要な義務として強調しているのであつて、本件安全運転闘争はこれ等諸規定の趣旨に合致するものである。(尚国鉄就業規則第五条の二は国鉄職員に対し安全綱領の遵守を命じている。)又右指令中の要注踏切の指定は前記の如く輸保一〇一号通達を参考とし保安施設を必要とする踏切の基準を考慮に入れて慎重に決定したものであるし、更に本部指令にいう「線路上又はその付近」の解釈に当つても前記福岡高等裁判所の判示する注意義務の内容を考慮して決定したものである。尚一審被告は要注踏切の通過、犬走り内に人影を発見した場合の各減速措置を以て現実の危険がないのに画一的に減速するものとして非難するが、一審原告等は斯る踏切の通過又は犬走り以内での人影等の発見を以て現実の危険としているのであつて、これは高速度交通機関の実情に即した考え方である。又一審被告は列車遅延の場合の回復運転をしないことをも非難するが、回復運転は通常運転より更に高速度で運転するものであるから、一旦事故が発生した場合は被害も大きく却つて危険度が増すので、これを行なわないこととしたのであつて、これ等は安全確保の上で何れも相当な処置であり何等非難されるべきものではない。

3  本件安全運転闘争の利害得失を比較しても、これを以て著しく不都合な行為ということは出来ない。即ち、本件安全運転闘争による列車の遅延は一審被告の主張する如く一列車当り数分程度に過ぎず、一方四国支社管内に於ける平常時の列車遅延は一日全体で七〇〇分乃至八〇〇分であり特に年末年始等にあつては一日二、〇〇〇分にのぼるのであつて、これはそもそも列車ダイヤそのものに無理があるからであつて、当局の利益追及の政策に基づくものであり、これからすれば本件闘争による列車遅延は過大なものではない。他方右闘争によつて(1)学生等で犬走り以内を歩く者が激減し一般の認識を改め国鉄の安全保持に協力するようになつた。(2)本件闘争中安全運転を実施したことにより事故を回避出来た実例は土讃線だけで一〇件もある。(3)国鉄に反省を促すことが出来た。即ち昭和三六年一二月八日、四国支社に三、〇〇〇万円の踏切整備予算の追加配布があり、又右闘争後踏切整備が促進され、又気動車前頭部のバンバー取付も実施されるようになつた。(4)本件闘争は昭和三七年の運転保安闘争に引継がれ同年一二月一三日動力車労組と国鉄との間に「運転保安の確保について」の協定が成立し、又同日参議院運輸委員会に於て「交通事故防止対策確立に関する件」の決議が成立した、等の諸成果があり、これらは乗務員とその家族、一般国民大衆及び国鉄自身にも大きな利益をもたらすものである。

4  尚一審原告等は地本又は支部の三役として、本部又は地本の指令を忠実に実行したものに過ぎない。(地本指令一五号は本部指令一七号の確認であり、その範囲を逸脱するものではない。)一審被告は、四国地本以外の地方本部では安全運転の積極的行動が現われなかつたと主張するが、他の地方本部に於ても動力車労組本部からの指令に基づく行動は行なわれたのであるし、又仮に一部の地方本部に於て動力車労組本部の指令を守らないことがあつたとしても、そもそも労働組合に於ては下部機関が上部機関の指令を忠実に実行することが正常なのであるから、このことを以て一審原告等を非難することは出来ない。(尚この関係は四国地本内の徳島、高知両支部と他の支部との関係についても同様である。)そして右本部指令を発した中央本部役員等は何等の処分も受けておらず、又右闘争に参加した者も何等の処分も受けていない。然るにその中から第一審原告等九名のみが著しく不都合な行為をした者として処分を受けなければならない理由を納得し難い。

四  一審被告は本件安全運転闘争は公労法一七条の禁止にふれる行為であると主張する。しかし

1  公労法一七条は憲法二八条に違反し無効である。

2  最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決(所謂全逓中郵事件)は争議権の制限を合憲ならしめる条件の一として、労働基本権の制限は勤労者の提供する職務又は業務の性質が公共性の強いものであり、従つてその停廃が国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害をもたらす虞れのあるものについて、これを避ける為必要やむを得ない場合に考慮さるべきであるとし、この点は既に制定されている法律を解釈適用するに際しても十分に考慮されなければならないとする。そうとすれば公労法一七条一項にいう「業務の正常な運営を阻害する行為」を解釈適用するに当つても勤労者の具体的な行為が果して国民生活全体の利益を害しこれに重大な障害を与えるものであるか否かを必ず判断しなければならない。ところで本件安全闘争をみるに、その動機、目的、規模、態様、結果等諸般の状況からして、それが国民生活全体の利益を害しこれに重大な障害をもたらす慮れのないことは明白であるから、この点からしても本件安全運転闘争が公労法一七条一項の禁止に反する違法な争議行為といえないことは明らかである。

3  本件安全運転闘争は公労法一七条一項にいう「業務の正常な運営を阻害する行為」に該らない。蓋し従来国鉄当局の指導によつて行なわれていた運転方法による業務運営は法の保護に値しない違法な業務運営であり、本件安全運転闘争は斯る違法な業務運営を排除する為に行なわれたものであるからである。又本件安全運転闘争は下部組合員の自発的意思から出発したものであるから、第一審原告等が組合員をその意に反してあおり、そそのかして本件闘争を行なわしめたものでもない。

五  前記全逓中郵事件に関する最高裁判所判決は公務員の争議権制限に違反した者に対する刑事制裁は必要やむを得ない場合に限られるべきものとし、その理由として、契約上の債務の不履行は契約の解除、損害賠償等の民事的効果を伴うに止まり刑罰を課せられないのが原則であり、このことは人権尊重の近代的思想からも、又刑事制裁は反社会性の強いもののみを対象とすべきであるとの刑事政策の理想からも当然であるとし、従つて勤労者が単に労務を提供せず、又は不完全にしか供給しないことがあつても、それだけでは一般的に刑事制裁を以て臨むべきではないと判示している。右判例は刑事事件に関するものであるから懲戒処分には直接言及していないが、懲戒処分も刑事制裁と同様勤労者に一定の不利益と苦痛を課するものであり、単なる債務不履行に対する民事的効果でないことは明らかであるから、右判旨から推論すると公共企業体職員の争議行為に対しては懲戒処分も課し得ないとの結論に到達する。

六  公労法一八条は「前条違反の職員は解雇されるものとする」旨規定しているが、これは同条の解雇以外の制裁、処分は一切なし得ない趣旨とみなければならない。蓋し公労法一七条違反の争議行為はあらゆる意味で違法な行為としての評価を受けるのではなく、公労法のその限度内で違法との評価を受けるに過ぎないのであり、従つてこれに対する制裁は同法一八条所定の解雇に限定され、これ以外の事業法や就業規則に基づく懲戒処分の如きは認めない趣旨であると解される。

七  本件闘争は争議行為として行なわれたものであるから本来平常時の個別的な労使関係を規律することを趣旨とした国鉄法並びに懲戒規定は右闘争行為に適用の余地はない。

八  仮に以上の主張が理由がないとしても本件懲戒処分は不当労働行為であつて無効である。即ち、一審原告等は予て活発な組合活動をして来た者であるが一審被告が本件各懲戒処分をなすに至つた決定的理由は一審原告等の右組合活動を嫌悪した点にあることは明瞭であり、従つて労動組合法七条一号により本件各処分は無効である。

九  又一審被告が一審原告等の右行為につき前記の如き懲戒処分に付したことは明らかに過重な問責であつて、右処分は懲戒権を濫用したもので無効である。

一〇  原判決は一審原告塩田についてのみ他の一審原告等と異なり懲戒権濫用の抗弁を排斥したが右塩田は四国地本執行委員長の地位にあつたというだけで、その他は他の一審原告等と何等異なるところなく、同原告等と共に本部指令に忠実に従い各々責務を分担してこれを実行したに過ぎないものである。従つて一審原告塩田のみを他の者と別異に取扱うべき根拠は全くない。若し同原告が右委員長の地位にあつたことを以て特別に扱うべき根拠とするのであれば、それは組合の運営が機関討議を重ね、その上に立つて執行されるものであることを無視したものといわねばならない。又一審原告塩田等に本件闘争を指令した中央本部役員等に対しては何等の処分も行なわれていないのであつて、これとの均衡からも一審原告塩田に対する本件懲戒処分は過重な処分であり裁量の範囲を著しく越え権利の濫用として許されないものである。

第四一審原告等の右第三の主張に対する一審被告の認否並びに反ばく。

一  右第三の二の主張について。

1  一審原告等の右主張1の事実中、動力車労組の組織、目的、活動(但し四国地本が組合目的達成の為活動して来たとの事実を除く)の点は認める。右括弧内の事実は不知である。

2  同2の事実中四国支社管内に於ける昭和三〇年から同三七年までの間の気動車の増加数、昭和三六年度の踏切事故件数及び同事故による死傷者数が一審原告等主張の通り増加していること、同年度の国鉄全体の踏切改善費が二五億円であつたこと、国鉄には九支社二七鉄道管理局があること、列車の増発に伴い四国地本より要員の増加、気動車前頭部の補強、踏切設備の改善等の要求がなされたこと、昭和三六年二月佐長列車課長補佐が四国支社に於ける踏切対策五か年計画により第四種踏切六四か所を第三種踏切にする旨を明らかにしたこと、同年度(但し本件闘争時まで)の踏切改善は一一か所であつたこと、同年九月二六日第一審原告等主張の協定が成立したこと、バンバーの取付けが遅れていたこと及び同年一〇月二四日一審原告等主張の如き事故のあつたこと、以上の事実は何れも認めるが、その余の事実は総て否認する。気動車の導入が直ちに列車密度の増大やスピードアツプにつながるものではなく、又国鉄事故の原因は各事故毎にその原因を検討して決定せられるべきで、気動車の増加のみがその原因をなすものとはいえない。尚昭和三六年度において踏切事故件数、死傷者数が前年度より増加はしているが昭和三四年度以降の件数の比較によれば必ずしも激増したものという程ではない。国鉄は保安設備については常に重大な関心を持ち、特に踏切改善については昭和三一年本社に踏切対策委員会を設けて踏切整備計画を樹立してこれが整備を実施して来たのであり、四国支社に配布する踏切整備に関する予算も昭和三三年度二、五六二万円、同三四年度七、二七四万円、同三五年度三、九六四万円を計上している。更に昭和三六年には予算二〇〇億円を計上して踏切整備五か年計画を樹立し、初年度予算二五億円のうち四国支社には六、〇〇〇万円(当初三、〇〇〇万円、追加三、〇〇〇万円)が配賦され、四国支社は立体交差費を合せ同年中に九、九四三万円の資金を投じて踏切改善(四種踏切の三種化は同年度末までに合計二二か所であり、そのほか踏切道幅員拡張工事等)を行なつた。

3  同3の事実中同年一一月一七日所謂筑肥線事件につき福岡高等裁判所の判決がなされたこと、右事件の概要並びに判旨が第一審原告等主張の通りであることは認めるが、その余の事実は不知である。右判決は要するに二歳程度の幼児は危険に対する理解と自己防衛の能力がないのであるから、斯る幼児を進路付近に発見した列車運転者は直ちに急停車するか又はその可能な程度に減速して危険の発生を未然に防止すべき義務がある、というのであつて、その年令、挙動位置に拘らず常に警笛吹鳴だけでは足りず急停車又はそれの可能な程度に減速すべきことを要求しているのではない。

4  同4の事実中動力車労組中央執行委員会が闘争方針を決定したこと、一審原告等主張の日、その主張の如き内容の本部指令一六号が発せられたこと、又その主張の日国鉄総裁に対しその主張の如き申入れがなされたことは認めるがその余の点は否認する。右申入れに対し一審被告は同年一二月四日組合側と三時間余に亘つて話合いを行ない、二〇〇億円の予算を以て踏切整備五か年計画を実施中であること、車輛前頭部補強の点については前部鉄板を最大限厚くしており、前面ガラスの取替や運転席を高くすることは実施中であること、等具体的に説明し、又事故の際の刑事責任については当局が負いたくても負えない旨、人命尊重は至上命令であるが列車ダイヤの確保も公共的使命であつて軽視すべきものではない旨、運転の際の危険防止は具体的事案について判断すべきで一般的、画一的に律することは困難である旨、前記筑肥線事件の判決については一審被告も納得し難い点があり、本人の上告について当局も支援する旨を説明し、誠意を以て話合いを行なつた。

5  同5の事実中同年一一月二七日四国地本執行委員会が開かれて本部指令一六号の実施を確認し、且一審原告等主張の決定をなしたこと、同日午後一審原告塩田等と四国支社長との会見が行なわれたことは認めるが、その余の事実(但し地本指令一四号発出の点を除く)は否認する。右会見は支社長水野正元就任後の四国地本役員との儀礼的な初会見として行なわれたもので、組合側から、検修方式の変更に関する事前協議列車の保安、踏切設備の強化、要員の確保、年末手当、一月期昇給問題について意見の開陳があり、支社長から各項目について意見を述べ特に列車の保安、踏切設備の問題については、同年度四国支社へ交付された踏切改善費は当初三、〇〇〇万円であつたがその後更に三、〇〇〇万円の追加配賦が決定したこと、筑肥線事件の判決については国鉄の仕事に対する裁判所の認識を更に深める方法を講ずる必要がある等の意見を述べたが、内容的に深く立入つた労使の交渉というものではなかつた。

6  同6の点は認める。ただし本部指令一七号の内容は安全運転闘争を具体的に指示しただけのものではない。

7  同7の事実中地本指令一五号中の要注踏切の特定は輸保一〇一号通達を参考とし保安施設を要する踏切の基準を考慮して決定したとの点を否認し、その余の事実を認める。尚輸保一〇一号通達は一審被告の踏切保安設備設置の標準であるが、国鉄当局と職員との間で拘束力をもつものではなく、又その内容は当該踏切の換算交通量、見通し距離、列車回数の相関関係を以て保安設備を設ける標準としているのである。

8  同8の事実中同年一二月二日四国支社労働課長等が四国地本三役と会見したことは認めるが、その余の事実は否認する。右会見に於て地本側からは年末手当等の要求に付加して前記筑肥線事件判決に抗議する為本件安全運転闘争を行なう旨の申入れがあつたので、右労働課長等は前記の通り(第二の三の4)警告したのである。

二  一審原告等の第三の三の主張について。

1  一審原告等は本件安全運転闘争の目的として踏切等保安設備の改善要求を強調するが、この点については一審被告も常に関心を持ち改善に努力して来たことは先に主張の通り(第四の一の2)であり、又右改善整備には莫大な費用を要し、且短期間に完成出来るものではないことは一審原告等も充分了知しているところである。そして以上の事情と一審原告等は年末手当の妥結した直後に本件闘争の戦術転換をしていること並びに地本三役が本件安全運転闘争を指示するに当り、一二月二日付で傘下各支部に配布した文書(乙第四号証)中に、実力闘争によつてのみ年末手当等の要求を解決出来る旨の記載があり、又右闘争終了直後四国地本が各支部に配布した文書(乙第一二号証)には右闘争により発生した列車遅延を以て本件闘争の成功と評価する旨の記載があることからすると、右闘争の目的が前記年末要求の貫徹にあつたことは明らかである。

2  輸保一〇一号通達の趣旨内容及び筑肥線事件についての控訴審判決の趣旨については既に述べた通りであり(第四の一の3及び7)又本件安全運転闘争により大幅に列車が遅延し、列車運行の組織的系統が混乱したことは却つてそれだけ危険度が増大したわけで斯様な闘争を目して国鉄安全諸法規に適合するものとは到底いえない。

3  本件闘争当時の四国支社の列車遅延は、平常時一日七〇〇分乃至八〇〇分、年末年始約二、〇〇〇分であつたことは認めるが、当時の定期列車数は六九九本であつたから平時の遅延は一列車当り約一分であり、この程度の遅延は予期せぬ障害の発生等の為避け難いものである。而して本件闘争期間中の遅延時分は一二月五日一、七四九分、同月六日四、二九七分、同月七日六、六一二分、同月八日四、一六四分に達し、平日に比し膨大な遅延を生じたのである。(尚処分理由としてはこの中明白確実なもののみをとつたのである。)第一審原告等が本件闘争の成果として主張する事実は総て否認する。

4  一審原告等は地本指令一五号は本部指令一七号の範囲を逸脱していないと主張するが、地本指令一五号は、本部指令の「交通頻繁な踏切で要注踏切」との基準から離れ「見通し距離一〇〇米以下の踏切」等という独自の基準を設け、又本部指令の右部分の解釈を画一的に交通量換算八、〇〇〇人としているのであつて、要注踏切の選定について地本指令は本部指令より積極的というべきである。

三  懲戒権濫用の主張について。

1  本件安全運転闘争の実質は運心、服務規程等の諸規定並びにこれを補う慣行(長年の経験を基礎として形成されたものである。)によつて作られている正規の秩序に対して組合が別個の秩序を対立させ、一時的にもせよ正規の秩序を排し、組合の秩序によつて列車の運行を強行したものであつて、生産管理の性格を有する。もとより列車の運行に関する正規の秩序は国鉄当局がその責任に於て設定し確保すべきものであつて、職員は仮令之に反対の意見を有しても正規の秩序に従うことがその第一義的職責である。従つてこれを否定し別個の秩序を強行することはそのもたらした現実の結果や影響の大小に関係なく極めて悪質であるといわねばならない。そして以上のような性格をもつた行動が年末闘争の一環として、組合の団体行動として、しかもこれが筑肥線事件の判決を契機として、むしろこれを利用して実施せられたということは極めて重大である。原判決は他面それが保安設備改善の要求をも目的としたとして責任軽減の一事由とする。しかしかかる行動も正当防衛乃至緊急避難の法理を類推適用し得るような事情のある場合は格別、本件ではかような事情もないことは国鉄においても着々と改善を推進しており、また高知、徳島支部以外全国的にも列車運行の混乱を招いた事例のないことからも明白である。したがつて原判決は結局において要求が正当であれば公労法一七条の適用がないというに帰し、同条の存在理由を没却するものである。なお国鉄事業はその運営の拡大強化とそれによる危険増加の防圧という二つの相容れ難い要請をもつもので、その均衡点をいずれに求めるかは全国的配慮の下において極めて広汎かつ高度の政策的、行政的、国民経済的な考慮を必要とするものであつて一地方の実情等の限られた資料に基づいて軽々に判断し得ない事柄である。仮に本件闘争が安全設備改善要求の手段としてなされたものとしても、右要求自体甚だ労使間の信義にもとる不当な要求である。即ち本件闘争が行なわれるまでに踏切保安設備の改善については四国支社と四国地本との間で充分意見が交換され、それが巨額の経費を必要とし予算上多くの制約のあることを了解の上、今後支社に於て出来る限り努力する旨を約することによつて、この問題は実質上解決していたのであり、これに基づき一審被告は概に述べた如く(第四の一の2)多額の予算を獲得する等支社として懸命の努力を傾注して来たのである。斯る実情の上に立つて昭和三六年九月二六日四国地本との間に既述の協定(第三の二の2、第四の一の2)が成立し、一審被告は着々右協定の趣旨に沿う努力を重ねて来たのであつて、本件闘争当時この問題について労使間に意見の対立は全くなく、争議に訴えてまで貫徹を計らねばならぬような具体的要求は何も存しなかつたのである。然るに四国地本は労使間の右協定を無視し、突如前記要求をつきつけて充分な交渉も尽すことなく本件闘争に及んだものであつて、労使間の信義にもとる不当なものであることは明らかである。

第五証拠<省略>

理由

(本訴の適否について)

本訴は国鉄職員である一審原告等が国鉄より一審原告等に対してなされた懲戒停職処分の無効確認を求めるものであるところ、当裁判所も本訴の趣旨は右懲戒停職処分に基づく法律関係の存否の確認を求めるものであり、従つて訴の利益を肯定すべきものであると判断するのであつて、その理由は原判決理由中の訴の適否に関する項の二に説示するところと同一であるから、ここにその記載を引用する。

(本案について。)

一  一審原告等が請求原因第一、二項に主張する事実は何れも当事者間に争いはない。

二  本件停職処分の法律的性質についての当裁判所の判断及び一審原告等の加入する動力車労組の組織運営についての当裁判所の事実認定は、これ等の点に関する原判決の認定並びに判断(原判決理由の「本案について」の項の第一及び第二の一の1、2、3、4)と同一であるから、ここにその記載を引用する。(但し第二の一の2の二六行目から三三行目まで、同3の一五行目から一九行目まで、同4の一七行目から二一行目までを何れも削除する。)

三  そこで本件処分の原因となつた安全運転闘争及びこれがなされるに至つた経緯について考察する。

(一)  成立に争いのない甲第一二号証、第一三号証の一、二、原審証人福本増太郎、同土田寅三郎、同名波克郎、同大島藤太郎、同井内喜久雄、同川村国広、同吉田軍市、同山口信夫、同甲斐邦朗、同米田恒喜、同村田淳、同山地勝芳の各証言、原審に於ける第一審原告各本人(但し遠藤利男を除く)の供述(高須賀治の供述については第一回のみ)、当審に於ける第一審原告高須賀本人の供述並びに弁論の全趣旨を総合すると次の通り認められる。

昭和三一年から国鉄近代化第一次五カ年計画が実施され、動力の近代化(蒸気機関車に代えて電車、気動車を使用する。)等が推進されることとなり、四国支社管内にも第一審原告等主張の通り同年以降大量の気動車が導入され、これによつて列車のスピードアツプと列車密度の増大が実現されたが、同時に踏切事故件数も第一審原告等主張の通り増加した。なお昭和三〇年から同三九年までの間の全国の踏切事故件数、死傷人員、列車運行距離並びに自動車台数の年度別推移は別図一の通りであり又四国支社管内に於ける右同推移は別図二の通りである。そしてこれによると昭和三三年度の全国の踏切事故件数は二、五四三件、同三六年度のそれは三、一二三件であるから右四年間の全国平均の踏切事故増加率は一、二三倍であるのに対し、昭和三三年度の四国支社管内に於ける踏切事故件数は一一四件、同三六年度のそれは一八七件であるから右四年間の増加率は一、六四倍となつて、かなり高率であることが判る。又、四国支社管内の踏切事故件数の推移を他の鉄道管理局管内のそれと比較してみると別図三の通りであつて、二七鉄道管理局中四国支社は昭和三三年度第一〇位であつたのが同三六年度では第四位に上昇していることが判る。更に列車走行一〇〇万粁当りの踏切事故件数並びに自動車類一、〇〇〇台当りの同件数は別図四に示す通りであつて、これによると四国支社管内の件数は毎年全国平均を遙かに上まわり、昭和三八年度は全国中最悪の率を示している。右踏切事故増加の主たる原因は列車密度の増大による列車の踏切通過回数の増加、列車のスピードアツプによる踏切通過速度の高速化及び昭和三三年頃から飛躍的に増加した自動車による踏切交通量の急増等が主因となつて踏切の危険度が著しく増大したのに拘らず、踏切保安設備の改善がこれに伴つていなかつたことにあると考えられる。(このことは四国支社管内に於ける踏切保安設備の改善が積極的に推進された昭和三七年以降に於ては自動車の極めて著しい増加に拘らず踏切事故件数は横ばいからむしろ減少傾向を示していることからも推認出来る。)

尤も昭和三六年度迄にも一審被告に於て踏切安全対策を怠つていたわけではなく、昭和三一年に本社に踏切対策委員会を設け、同三二年度から踏切整備三カ年計画に基づき年額約八億円の予算を計上して踏切の立体交差化、警報機の設置等を行ない、又昭和三六年二月に本社に踏切保安部を設け踏切整備事務を統括して整備促進の態勢を整え、同年度から発足した国鉄近代化第二次五カ年計画の一環として、約二〇〇億円の予算を以てする踏切整備五カ年計画が立案され、初年度は二五億円(但しこの中一八億五、〇〇〇万円が一般整備費であり六億五、〇〇〇円円は立体交差費である。)の予算を計上し、列車回数、列車速度、踏切数、周辺の人口密度等諸般の事情を勘案して各支社に配分された。四国支社に於ても昭和三二年に踏切対策委員会を設けて踏切に関する諸施策を樹立し、昭和三三年度約二、五〇〇万円、同三四年度約三、〇〇〇万円(但し別に同年度一カ所の立体交差設備をなした費用約四、五〇〇万円)、同三五年度約三、三〇〇万円を投資し、又同三六年度以降は四国支社で立案した踏切整備五か年計画に基づき、同年度約六、七〇〇万円(尤も当初約三、〇〇〇万円。)を以て第四種踏切の三種化、踏切道の幅員拡張、反射鏡及び虎柵の設置、軌道回路の延伸等の整備を行なつた。(尚本件闘争後の昭和三七年度以降の四国支社の踏切整備費は昭和三七年度約五、〇〇〇万円、同三八年度約一億三、〇〇〇万円、同三九年度約一億八、二〇〇万円と飛躍的に増加している。)然し右投資に拘らず別図五に示す通り四国支社管内の踏切総数は昭和三三年から同三六年までの間殆んど変化なく(二、一二一カ所乃至二、一三一カ所)第三種踏切は昭和三三年度一二か所、同三四年度八か所、同三五年度一〇カ所、同三六年度二四カ所夫々増加し、踏切事故の八三パーセントが発生する第四種踏切は、昭和三三年度五か所増加し(その結果合計一、八六九か所となる。)、その後同三四年三か所、同三五年度一七か所、同三六年度九か所夫々減少したに過ぎない。(尚踏切整備工事のうち立体交差化や踏切道の幅員の拡張等の場合は道路管理者たる官公庁や地元民との協議が整わないと工事を実施出来ない等予算以外の制約が存する。)

(二)  成立に争いのない甲第三号証の一乃至三、第九号証、第一四号証の一乃七、第一五乃第一八号証、第二九号証の一、二、原審証人福本増太郎、同木村正義、同土田寅三郎、同井内喜久雄、同久利正夫、同中村順造、同香川弘文、同山地勝芳、同米田恒喜、同真鍋是、同甲斐邦朗、同山口信夫、当審証人後藤重夫の各証言、原審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(第一回)、同清家、同大谷、同阿部、同堀川、同藤松各本人の供述並びに弁論の全趣旨によると次の事実が夫々認められる。

(1)前記第一次五か年計画が推進されるに伴い一方に於て乗務員の労働強化が起り(乗務員の転換教育の為の予備率の低下、高速度長距離運転による疲労度の増大等)、他方に於て増加する踏切事故により乗務員の刑事責任が追及される事態も生ずるに及び、乗務員の間から踏切施設の改善等を望む声が聞かれるようになつたが、四国地本傘下の乗務員からも、要員の確保、気動車前頭部の補強のほか、自動車の大型化により踏切事故も重大化し、悲惨な結果を生ずるので踏切施設を早急に改善することについての要望が起り、殊に同地本傘下各支部のうち徳島、高知両支部所属乗務員が乗務する高徳線、徳島線、牟岐線、土讃線は四国支社管内の予讃線等に比して踏切設備が非常に悪く、又線路上を道路の如く歩く者も多い等の事情から、右各支部所属の乗務員らの安全についての関心が高く、踏切等設備の改善要求が強く起つて来た。(2)この為四国地本は四国支社に対し度々右の要求をなし、殊に列車ダイヤ改正の行なわれる都度右要求を重ね、昭和三六年度に入つてからも同年二月、四月、六月、七月、八月、九月に合計七回に亘り団体交渉や支社長会見を申入れ、運転保安施設の改善を要求して来た。(3)右二月の交渉の際の四国支社佐長列車課長補佐の説明により、当時同支社には警報機の設置を必要とする危険な第四種踏切が六四か所あることが明らかにされ、その際右危険踏切の選定基準については輸保一〇一号通達があり、その趣旨と四国に於ける実情から、列車が七五粁以上で通過する踏切(当該踏切を通過する全列車の平均速度が七五粁以上あるもの。)、見通し距離(踏切に於ける軌道の中心から外方五米の道路中央の地点に立つて、列車の進来方向に対し見通し得る線路の最遠地点までの距離)一〇〇米以下の踏切、交通量換算(歩行者一、自転車二、荷車、牛馬車各三、小型自動車、オート三輪車各一〇、自動車三〇と換算)八、〇〇〇人以上の踏切であることが明らかにされた。(4)同年九月二六日に、同年一〇月のダイヤ改正を直前にして四国地本と四国支社との間に保安設備の改善について団体交渉が行なわれ、支社側は踏切保安設備については今後共充分努力する、列車速度向上に伴う車輛の保安設備については更に努力するが当面デイーゼルカー準急にバンバーを取付ける等の内容の協定及び附属了解事項(以下単に協定という)が成立したが、右バンバーの取付けは昭和三七年三月から漸く着手され、同三八年二月に至つて急行、準急の約三〇輛に取付を終つたのであり、又その他の了解事項に付ては本件安全運転闘争当時殆んど実施されていなかつた。尚右九月二六日の交渉当時支社側は、気動車前面ガラスを強化ガラスに取替える作業(右取替えは昭和三五年の労使交渉によつて取決められていた)は全車輛について完了した旨説明していたが、同年一〇月二四日に第一審原告等主張の如き(事実摘示第三、二、2)夜鷹の衝突による乗務員の負傷事故が起り、このことから前面ガラスの取替未了の車輛のあることが判明した。(5)同年九月四日付四国地本の申入により同年一一月二七日に行なわれた地本三役と支社長との会見に於て、組合より当局に対して列車の増発に伴う要員の確保、列車の保安、踏切設備の強化、運転関係者の休養、厚生施設の充実等について重ねて要求がなされ、その席上右各項目について意見の交換がされたが、特に踏切施設の強化について支社長より、同年度国鉄全体の踏切改善費二五億円の中四国支社への配分は三、〇〇〇万円で少ないが、四国の現状を本社に述べて更に三、〇〇〇万円の追加配賦がきまつた旨の説明があつたほか筑肥線事故についての福岡高裁の判決について支社当局側から、国鉄九〇年の経験から生み出された規則や基準を忠実に実行し危険に直面した場合勘を働かせて正しく処置すれば四国では乗務員に不利な判決が出ることはない等の回答がなされた。(6)この間動力車労組中央本部に於ても昭和三五年一二月及び同三六年一月に夫々国鉄総裁に対して踏切事故防止についての申入を行い、又三六年七月に開催された全国大会に於て激増する踏切事故や国鉄の近代化、合理化に伴う乗務員の労働条件の切下げ等の問題を取上げ、又後記認定の筑肥線事件の控訴審判決がなされた直後の昭和三六年一一月二一日に中央執行委員長名を以て国鉄総裁に対し、踏切設備の改善、気動車等の前頭部の補強等の要求を主たる内容とする第一審原告等主張の如き申入(事実摘示第二、二、4)をなし、これに基づく第一回交渉は、同年一二月四日開かれ、当局側から、踏切問題については踏切保安部の組織を整備したこと、同年六月から発足した国鉄近代化第二次五か年計画に基づく踏切整備五か年計画の大綱、右計画の進捗状況等を説明し、気動車前頭部補強の問題については今後新造車の前頭部鋼板は技術的に可能な限り厚くする、前面ガラスは安全ガラスと取替える、運転席は高くするよう推進する、と述べ筑肥線事件判決については、判決は事件毎に個別的な判断をするものであるから右判決が一般に適応するものとは考えられない等、三時間余に亘つて説明、交渉が行なわれた。原審証人香川弘文、当審証人後藤重夫の各証言、原審並びに当審に施ける第一審原告塩田、同高須賀(但し原審第一回のみ)各本人の供述、原審に於ける第一審原告清家本人の供述中以上の認定に反する部分はたやすく信用することは出来ない。

(三)  成立に争いのない乙第一七号証、原審証人香川弘文の証言により真正に成立したと認められる甲第四号証、原審証人香川弘文、同吉田軍市、同川村国広、同井内喜久雄、同山口信夫の各証言原審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(第一回)同大谷、同長戸各本人の供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、昭和三五年一月二五日福岡簡易裁判所に於て所謂筑肥線事件につき有罪の判決がなされたが、右事件の概要は第一審原告等主張の通り(事実摘示第三、二、3)であること、その後最高裁判所に於て所謂越美南線事件について上告棄却の判決が言渡されたが(第一審有罪、第二審控訴棄却)、右事件の概要は国鉄機関士である被告人が貨客混合列車を運転して進行中前方約二〇〇米の長良川第三鉄橋の渡口附近に児童の姿らしい障害物を認めたが警笛を吹鳴したのみで児童らしい障害物が退避したか否かを確かめないまま同一速度で進行した為、子供等に傷害を与え又は即死させたというものであつたこと、当時国鉄乗務員にとって右両事件判決は現実の作業実態を斟酌しない過酷な注意義務を乗務員に要求するものと映じたが、動力車労組幹部等は列車事故による刑事責任を回避する為には結局右判決に従うほかはないとし、同年八月同労組全国乗務員会名義を以て、全国の乗務員に対し、右両事件の概要及びこれについての右各判決の内容を説明した上乗務員は進路前方に黒点又は異物を発見した場合は列車の運転時刻にとらわれることなく直ちに非常制動装置を執るようとの檄を発したこと、斯様な状勢にあつた為各乗務員等は前記筑肥線事件の控訴審判決について強い関心を寄せていたところ、同年一一月一七日福岡高等裁判所に於て控訴棄却の判決が言渡され、乗務員の過失責任が肯定せられたこと、右控訴審判決はその理由中で第一審原告等主張の通り(事実摘示第三、二、3)判示したこと、この為四国地本の乗務員の間には、安全設備が不充分なまま定時運転を義務づけられる結果常に危険な運転を余儀なくされているが、一度び事故を起すと忽ち過失責任を追及される虞れがあるという板挾みの立場におかれているものと感じ不安と動揺を生ずるに至り、四国地本に対し列車の安全な運転に付て当局の明確な指導を求めるよう強い要請がなされた。そこで四国地本は同年一一月一八日四国支社に対して緊急団体交渉を申入れ、これに基づき同月二〇日開かれた交渉に於て支社に対し前記各判決の趣旨に照して正当と考えられる運転方法の指示を求めたところ、当局側は四国では今迄に乗務員が運転事故によつて有罪判決を受けた例はないし、又従来から危険を認めれば急停車をしていたのであるから、従来通りの運転方法でよい筈であるとの趣旨の回答がなされたこと、又その頃徳島、高知各支部の乗務員の間で、当局は前記判決の趣旨に添った運転が出来るよう列車ダイヤを改正し、設備の改善をなし、又従来のようなダイヤ優先の指導方針を変えるべきであるとの意見が次第に強くなり、各現場長等に対し右事項についての質問、要求をなしたこと、以上の事実が夫々認められる。

(四)  ところで成立に争いのない甲第二号証の一、四、原審証人福本増太郎、当審証人後藤重夫の各証言、原審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(第一回)各本人の供述及び弁論の全趣旨によると動力車労組は昭和三六年度の年末経済要求(年末手当、翌年一月期の定期昇給の完全実施等)に関し同年一〇月中央委員会を開催して要求の内容及び右要求獲得の為の諸行動を定め、同月末頃から同年末にかけて当局との間に団体交渉を行うこととし、同年一一月一四日付書面を以て年末手当として基準内賃金の二か月分プラス一万四、〇〇〇円及び翌年一月期昇給の一〇〇パーセント実施等を要求する申入を、又同年一〇月二七日付書面を以て車輛検修方式の変更に関する申入を夫々当局に対してなしていたが、同年一一月一九日開催された中央執行委員会に於て、右各要求を貫徹する為の闘争についての具体的方針を検討した結果、翌二〇日動力車労組中央執行委員長車田守名を以て各地本執行委員長に対し本部指令一六号を発出したこと、右指令の内容は右年末要求並びに車輛検修方式の変更に関する当局との交渉の状況を説明した上、闘いを発展させる為次の通り行動することを指令するとし、(1)一二月一日より当分の間三六協定を破棄すること、(2)一二月一日から四日までの間に局長集団交渉を一回計画し、中央統一目標に地方要求事項を結合させ、従来の経験を活かして効果をあげること、(3)一二月五日より八日までの間に一日全支部が現場長集団交渉並びに順法闘争を実施し、適切なる指導を行ない効果をあげること、非協力闘争実施要領のうち特に力を入れて実施する事項の一つである順法闘争については乗務員を対象とし実施要領は安全運転とする殊に踏切事故の激発に伴ない踏切にかかる列車運転は人命を守ることを基本とする列車の安全確保であるが、これが指導は効果をあげるように実施する、等というものであつたこと、右指令一六号を受けた四国地本は、同年一一月二七日執行委員会を開催し第一審原告塩田、同高須賀、同清家のほか各地本執行委員が参加して右本部指令の実施を確認し、四国地本に於ける指令実施の具体策を討議し、各支部に地本執行委員を派遣して安全運転の指導をすること、世論対策として踏切実情等を国民に訴え理解と協力を求めること、安全運転の実施細則については中央本部の指令を待つて地本三役に一任すること等を決定し、同日午後地本執行委員等は後記の如く四国支社長と会見した後、四国地本執行委員長塩田嘉吉名義を以て傘下各支部執行委員長に宛てて本部指令と略同内容の地本指令一四号を発出したこと(但し日付は本部指令を受けた日である同月二五日付とされた。)以上の事実を夫々認めることが出来る。

(五)  以上の情勢のもとで同年一一月二九日動力車労組中央本部執行委員長名を以て本部指令一七号が各地本執行委員長に発せられたことは当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第二号証の二によると、その内容は中央執行委員会の情勢判断として「情勢」の項の1乃至4に、検修合理化、踏切等の事故防止、年末手当、一月期昇給等についての団体交渉の進展状況を説明した後、同5に於て踏切の事故防止に関し、動力車労組は踏切事故の問題を国鉄の近代化、合理化政策の矛盾として重視し、国鉄の経営政策を追及し、具体的には踏切道の安全設備、動力車前頭部の補強、乗務員の労働条件の改善と刑事免責を要求し、更に参申法、踏切保安法等の制定要求の闘いと結合させ、合理化闘争の中で大きく位置づけ、闘いを発展させる方針である旨を明らかにした上、「以上の情勢から本部は年末闘争について検討し、当面の諸行動を次の通り決定したので指令する。」とし、「指令」の一項冒頭に「本部指令一六号(昭和三六年一二月二〇日付)による行動に関して次により具体化し実施すること」として、1、三六協定の破棄、2、集団局長交渉、3、現場長交渉と順法闘争、について夫々趣旨方法等を説明した後、4、に於て、安全運転は前記踏切事故防止に関する闘争方針に基づいて対処するものであり、年末闘争を起点として明年春闘に発展させる展望で長期的闘いを構える、とした上、具体的行動の基準として第一審原告主張の第三の二の6の(A)乃至(C)の如く指令したものであることが認められる。

(六)  成立に争いのない甲第二号証の三、第一五号証、原審証人井内喜久雄、同香川弘文、当審証人後藤重夫の各証言、原審並びに当審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(原審第一回)原審に於ける第一審原告清家各本人の供述並びに弁論の全趣旨によると、右指令一七号を受けた四国地本では、同年一二月二日三役会議を開いて右指令の実施を確認し、且同指令に基づく要注踏切の指定については前記輸保一〇一号通達及び佐長列車課長補佐の説明を参考にして第一審原告等主張の第三の二の7の(イ)乃至(ニ)の如く定め(但し右(イ)(ロ)(ハ)の踏切の意味は前記佐長列車課長補佐の説明〔三の(二)の(3)〕と同じ)又指令にいう「線路上又はその附近」については前記筑肥線事件の判決に示された注意義務の内容を考慮して「犬走り以内と解釈する」旨(犬走りとは国鉄部内で通常用いられているところの軌道の道床バラスの両端から両脇約三〇糎乃至四〇糎の平担部及びその外方に拡がる土手の斜面から側溝までの範囲である。)を明らかにし、そのほかは本部指令一七号と同一内容の安全運転実施要領を決定し、四国地本指令一五号として第一審原告塩田名を以て同日電話で、同月四日文書で夫々傘下各支部執行委員長宛発したこと、右危険踏切の指定及び「線路上又はその附近」を犬走り以内と解釈することについては、予め中央本部と連絡の上本部指令の範囲を逸脱するものでないことを確認したこと、以上の事実が夫々認められる。原審証人香川弘文の証言、原審並びに当審に於ける第一審原告高須賀本人(但し原審第一回)当審に於ける同塩田本人の各供述中右認定に反する部分は措信し難い。而して原審証人亀山義一の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証、原審証人亀山義一、同真鍋是の各証言、原審に於ける第一審原告高須賀(第一回)、同清家各本人の供述並びに弁論の全趣旨によると、地本三役は同年一二月二日右地本指令一五号の発出に先立ち四国支社亀山労働課長、真鍋車務課長等と会見して、越美南線事件並びに筑肥線事件の各判決がなされたことに伴い危険な個所での運転方法について当局に対し具体的な指導を求めて来たのに、未だに当局よりこれについての明示がないことに対して不満を述べた上、本部指令に基づき安全運転を行う旨、その方法は地本指令一五号に示す如き内容によつて行うものであることを通告したほか、労働条件に関し二、三の申出がなされたこと、これに対し両課長からは、踏切事故については本年度三、〇〇〇万円の追加予算も承認され、支社としても出来るだけの努力をしていること等を説明し、安全運転によつて違法な事態が生じ処分の対象となることのないよう自重を要望したことが認められる。原審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(第一回)、同清家各本人の供述中右認定に反する部分は措信し難い。然るに後記認定の如く、右地本指令一五号に基づき徳島、高知両支部に於て同年一二月五日から八日までの間安全運転が行なわれたのであり、これに対し四国支社長は同年一二月六日付書面を以て第一審原告塩田に宛て、業務の正常な運営を阻害する順法闘争(安全運転)は許されないから中止するよう要望すると共に違法事態が発生した場合は厳重に処分する旨を警告したことは当事者間に争いはなく、原審に於ける第一審原告塩田本人の供述によると右文書は同月七日午後四時頃右塩田に交付されたものであることが認められる。原審に於ける第一審原告高須賀治本人の供述(第一回)中右認定に反する部分は措信し難い。そして成立に争いのない乙第一二号証、原審証人香川弘文の証言、原審に於ける第一審原告塩田、同高須賀(第一回)、同清家各本人の供述を総合すると第一審原告塩田は同年一二月八日午前一一時支社長からの会見申入に応じ、支社長より安全運転の中止方を要望されたこと、その際支社長より運転保安の予算は本年度三、〇〇〇万円の増額を行つたが、本年度予算の中で更に増額を考慮する、列車事故による刑事事件については支社は個人の責任とならぬよう努力する、安全運転闘争については十分理解出来るので責任追求については考慮する、との申入があり、又第一審原告塩田はこれ以上安全運転闘争を続けて列車ダイヤを混乱させると由々しい問題となると考え、第一審原告高須賀、同清家(同原告等は当時徳島気動車区又は高知機関区へ夫々赴いていた)等と連絡して相談の上、動力車労組本部の了承を得て、同日午後四時頃各支部に対し戦術転換を指令し事実上本件安全運転闘争は中止されたことが認められる(尤も後記認定の通り、高知支部に於ては同日午前六時頃、徳島支部に於ても同日正午頃夫々事実上安全運転を中止した。)当審証人後藤重夫の証言、原審並びに当審に於ける一審原告高須賀本人(原審第一回)の供述、原審に於ける一審原告塩田本人の供述中には右一二月八日に一応戦術転換をしたに過ぎず本件安全運転闘争を中止したものではない旨の供述があるが、たやすく措信し難く、当審証人後藤重夫の証言により真正に成立したと認められる甲第三〇号証の一、七によるも右の認定を左右し得ない。

(七)  成立に争いのない乙第六号証の二、原審証人皆見照一の証言により真正に成立したと認められる乙第六号証の一、原審証人皆見照一、同木村正義、同井内喜久雄、同山地勝芳の各証言、原審に於ける一審原告大谷秀夫、同遠藤利男、同阿部与幸の各供述に弁論の全趣旨を総合すると、前記地本指令一四号、一五号を受けた一審原告大谷は、同年一二月二日徳島支部緊急執行委員会を開き一審原告阿部与幸、訴外中村某等が出席して地本指令の実施を確認し、同支部に於ける安全運転実施の具体策を討議した結果同支部所属乗務員の乗務区域にある踏切のうち地本指令一五号にいう見通し距離一〇〇米以下の踏切及び同支部に於て特に危険と認める踏切につき解説してその踏切例を図示することとし、又交通量特に頻繁な踏切(交通換算量八、〇〇〇人)については、徳島保線区に問い合わせて調査の上、三二か所の要踏切を選定し、その余の事項については地本指令一五号と同旨の安全運転実施要領を決定したこと、右三二か所の踏切の中には多数の第三種踏切が含まれていたこと、川田、穴吹駅間の穴吹踏切(徳島駅起点三八・一五六粁)は当時既に第一種踏切であつたのを隣接の他の踏切と誤つて要注踏切に指定したこと、第一審原告遠藤は右緊急執行委員会に出席していなかつたが、翌三日大谷委員長より右決定内容を聞かされ了承したこと、同月四日朝第一審原告大谷は右安全運転実施要領を記載した書面を同支部指令として徳島気動車区事務所前の組合掲示板に掲示すると共に、同一内容のビラを同支部所属の組合員に配布して安全運転の実施を指令したこと(右文書には回復運転をしない旨の記載が脱落している。)同日午後四時頃第一審原告大谷、同阿部の両名は徳島気動車区々長室に於て皆見区長に対し筑肥線事故についての控訴審判決に対する乗務員の自衛的手段として、又組合より当局に対し再三踏切設備の改善を要求して来たが、誠意がないので、本部指令に基づき安全運転を実施する旨を通告したこと、これに対し皆見区長、木村首席助役等は判決に対する乗務員の気持は判るが列車の運行を乱してまで抗議するのは穏当でないから考え直すよう説得したこと、然し同支部に於ては指令通り同月五日から八日まで安全運転闘争が実施されたこと、皆見区長は同月五日朝同気動車区運転当直室に本件安全運転は多少行過ぎと思われる点があるので平常通りの運転を行なうよう要請する旨記載した指示書を掲示したが、第一審原告大谷等から抗議がなされた結果二、三時間で右指示書を撤去したこと、同日第一審原告大谷は徳島気動車区乗務員詰所に居合わせた乗務員等に対して安全運転の実施方法を説明しその実施を指示したこと、翌六日も皆見区長は第一審原告大谷、同阿部を区長室に招き、列車の正常な運転を確保するのが乗務員の役目であるから、平常通り運転するよう要望し、又他の支部は地本指令に同調しているとは認められないので徳島支部だけが犠牲者を出すようなことのないよう慎重に行動するよう説得したこと、以上の事実を夫々認めることが出来る。原審証人井内喜久雄の証言中以上の認定に反する部分は措信し難い。

次に成立に争いのない乙第八号証の三、四、原審証人久利正夫の証言、同証言により真正に成立したと認められる乙第八号証の一、原審に於ける第一審原告長戸幸吉、同堀川勇喜、同藤松春好各本人の供述に弁論の全趣旨を総合すると、前記地本指令一四号一五号を受けた第一審原告長戸は同年一二月三日高知支部拡大執行委員会を開き、第一審原告堀川、同藤松等等同支部幹部が出席して右指令の実施を確認した上、同支部に於ける安全運転の実施要領を協議し、同支部所属乗務員の乗務区域にある踏切のうち前記地本指令にいう要注踏切に該当するものを選定することとなつたが、その際保線区に問合わせ、又基準運転線図や乗務員の意見を参考にして、上り列車関係で五二か所、下り列車関係で六〇か所の要注踏切を指定し(右指定踏切中には同一踏切が上り線、下り線双方の要注踏切に該当し重複して指定されたものもあり、又指定踏切中には相当数の第三種踏切も含まれている。)その他の事項は殆んど前記地本指令と同一の決定をなしたこと、そして右実施要領を同支部指令として同月四日高知機関区事務所前の組合掲示板に掲示し、翌五日早朝より右実施要領を記載したビラを同支部組合員に配布して安全運転の実施を指令したこと、同日午前一一時頃第一審原告長戸、同堀川、同藤松らは高知機関区長久利正夫に対し、従来組合より当局に対し踏切設備の改善その他運転保安の確保を要望して来たが当局は具体的措置を講じないので、筑肥線事故に関する判決に抗議すると共に当局に対し安全に運転出来るような措置を緊急にとることを要請する為安全運転を行う、旨を通告し、これに対し同区長は、列車の安全運転は乗務員の職責であり正常な判断で危険と認めた場合に急停車又は徐行の措置をとるのは当然であるが本件安全運転の如く画一的に徐行することは行き過ぎでありその責任を追及されるかも知れない旨述べたこと、然し同支部に於て指令通り同月五日から八日まで安全運転闘争が行なわれたこと、そしてこの間第一審原告長戸は毎日午後一時頃から同三時迄の間高知機関区講習室で乗務員を集めて集会を開き安全運転の実施方法を説明指示したこと、右久利区長は同月七日午後五時頃第一審原告長戸ら支部三役を区長室に招き、駐在運輸長らから列車運行の混乱による重大事故が惹起する危険性を強調して安全運転の中止を説得し、又同日夜も支部三役と安全運転中止について話合い、その際組合側は右闘争の緩和(要注踏切の指定解除等)の意向を示したが支部独自で決定は出来ないとのことであり、翌八日午前六時頃支部三役のほか地本から第一審原告清家書記長が出席して久利区長らと交渉し組合側は指定踏切について所謂注意運転(速度制限を解き注意して運転する)を行うこととし、事実上終結したこと、以上の事実が夫々認められる。原審に於ける第一審原告長戸幸吉、同堀川勇喜各本人の供述中右認定に反する部分は措信し難い。

四  本件安全運転闘争の目的

本件安全運転闘争の目的について、第一審被告は年末手当等の経済要求を実効あらしめる為の手段としてなされたものと主張し、第一審原告等は運転の安全を確保し乗務員及び公衆の生命、身体の保護を目的としたものであると主張するので考えるに、本件安全運転闘争が行なわれるに至つた経緯について認定したところから明らかなように、右闘争は本部指令一六号、同一七号を受けた地本指令一四号、同一五号に基づいて行なわれたものであるところ、右本部指令一六号(地本指令一四号も略同文)が年末経済等要求貫徹の為の指令であることは右指令の文言及び原審証人福本増太郎、当審証人後藤重夫の各証言によつて明らかであり、而して本部指令一七号の文言は先に認定の通りであつて、指令一六号にいう安全運転に付ての具体的指示をなしたものと解される部分があり(尚この点に関する原審証人福本増太郎、当審証人後藤重夫の証言中反対趣旨の証言部分は措信し難い。)又前記乙第六、第八号証の各一、成立に争いのない乙第四号証、原審に於ける第一審原告高須賀(第一回)、同清家各本人の供述によると、四国地本が指令一五号を傘下各支部執行委員長に電話で伝えた日である昭和三六年一二月二日付で各支部及び組合員に配布した教宣活動の文書(乙第四号証)には、年末手当等の要求は全組織をあげて実力を以て闘うことにより解決出来るのであり、地本は本部の指令により一二月二日具体的行動内容を指示した旨の記載があること、本部指令一七号及び地本指令一五号の発出された当時は未だ年末要求は解決されてなく、従つて右各指令による闘争目的中より年末要求を除外すべき理由は見出し得ないこと及び右年末要求が妥結したのは同年一二月八日未明であるが同日午後には本件安全運転闘争を終結していること、以上の各事実が認められ、これからすると本件闘争は第一審被告の主張する如き目的を有したことを否定することは出来ない。然し他面右闘争の背景として前項認定の如く国鉄輸送の近代化に伴う踏切等運転事故の激増と重大化、組合の当局に対する再三に亘る運転保安設備の改善要求に拘らず、予算の制約等の為、結局第一審原告らの所期する右近代化に相応する安全設備の整備にまで至らず、依然として事故は増加し又これによって乗務員が刑事責任を追及される事例も生ずるに至つたこと等の事実が存したのであつて、以上の如き背景と前認定の如き本部指令一七号の文言及び原審証人福本増太郎、当審証人後藤重夫の各証言、当審に於ける第一審原告高須賀本人の供述を総合すると、動力車労組は、本部指令一六号を発した当時は主として年末要求について当局との団体交渉を行なつていたのであるが、右指令発出と前後してなされた筑肥線事故についての福岡高等裁判所の判決は先になされた越美南線事件についての最高裁判所の判決と共に国鉄乗務員に対して深刻な不安を生ぜしめるに至ったので、ここに同労組本部は従来からの保安設備の改善の要求等運転の安全についての要求を早急に実現せしむべく強い要望が生じ、同年一一月二一日国鉄総裁に対して事故防止についての申入(甲第九号証)をなし保安設備の改善等について国鉄当局に強く要求し、この為本部指令一七号に於ては右事情を前記「情勢」5(前記三(五))に盛込んで国鉄当局に対して右諸要求をなすことを明らかにした上、本件安全運転闘争は右情勢5に述べた方針に基づき且長期的な構えを以て闘う旨を指令したものであることが認められる。以上の事実と本件闘争に入るに当り第一審原告等(但し第一審原告遠藤を除く)が四国支社側或は徳島、高知の各現場長に右闘争を通告した際の前認定の如き各言動、及び前記乙第六号証の一と原審に於ける第一審原告大谷本人の供述とによつて認められる、第一審原告大谷は同年一二月八日午前七時頃徳島気動車区首席助役木村正義に対し年末手当が妥結しても安全運転は中止しない旨述べている事実を総合すると本件安全運転闘争は年末要求のほかに、踏切等安全設備の改善要求をも目的とし、むしろ以上の経緯に照すと後者の点に重点が置かれていたものと認められる。原審証人福本増太郎、同吉田寅三郎、同井内喜久雄、同香川弘文、同川村国広、同吉田軍市、同山口信夫、同名波克郎、同甲斐邦朗、同米田恒喜、当審証人後藤重夫、同稲妻徳雄、同吉田定義の各証言、原審に於ける各第一審原告本人の供述(但し一審原告高須賀本人の供述については第一回のみ)当審に於ける一審原告高須賀本人の供述中以上の認定に反する部分はたやすく信用することは出来ない。

一審被告は本件闘争終了直後四国地本が各支部に配布した文書(乙第一二号証)中に「安全運転成功する列車遅延一万八、〇〇〇分」と記載して右闘争によつて発生した列車遅延を以て闘争の成功と評価していることを捉え、右闘争の目的が第一審被告主張の如きものであつたと主張するが、列車を遅延させたことを以て闘争の成功と評価したとしても、これから直ちに右闘争が年末経済要求の手段としてのみなされたものとはいえないし、むしろ右乙第一二号証の記載内容からすると、右闘争の結果支社長から運転保安の為の予算を更に増額することに努めるとの確約を得たこと、国民が乗務員の立場を理解するようになつたこと等を以て右安全運転闘争の成功と評価しているものと解されるから、第一審被告の右主張は採用し難い。

五  本件闘争の影響

本件安全運転闘争の結果、徳島気動車区及び高知機関区に於て夫々原判決添付列車遅延状況一覧表記載の通り列車の遅延を生じたことは当事者間に争いはなく、原審証人米田恒喜の証言並びにこれにより真正に成立したと認められる乙第九号証の四によると、下り第六七九D旅客列車(始発駅高知午後七時一一分三〇秒発、終着駅窪川)は高知、土佐久礼駅間の運転を休止したことが認められる。(その情況は、右列車は上り第六七八D旅客列車が終着駅である高知駅到着後一分三〇秒して折返し列車となつて運転されるものであるが、一二月七日には右第六七八D列車が高知駅に三八分遅れて到着した為一分三〇秒後に第六七九D列車として出発させると、後発の同駅発午後七時五五分下り第六八一D旅客列車〔始発土佐山田駅、終着土佐久礼駅〕との時間差が五分三〇秒しかなく前途の運転管理上支障を生ずるので、やむなく第六七九D列車の高知、土佐久礼駅間の運転を休止し、同車輛を右第六八一D列車に連結して土佐久礼駅まで運転し、同駅から終着窪川駅までは正規の第六七九D列車として運行されたものである。従つて実質的には右第六七九D列車は約三〇遅れて高知駅を発車し、同時間遅れて窪川駅に到着したのとかわらない結果となつている。)そして右認定の列車の遅延だけであれば、一列車当りの遅延時分は数分程度であつて必ずしも過大な遅延とはいえないが、原審証人米田恒喜の証言によると四国支社管内に於ける本件闘争当時の平素の列車遅延状況は一日七〇〇分乃至八〇〇分であるところ、右闘争期間中の遅延は初日の一二月五日約一、七〇〇分、同月六日約四、〇〇〇分、同月七日約六、〇〇〇分、同月八日約四、〇〇〇分であつたことが認められるのであつて、右証言及び原審証人木村正義の証言によつて認められる、平素は多少の遅延時分については所定の報告を行なわずに隠蔽することがあるが本件闘争期間中は厳格に報告されている等の事情を考慮しても、右期間中の遅延時分より平素の遅延時分を差引いたものの大部分は本件安全運転闘争によって生じたものと推認される。

六  本件安全運転闘争と懲戒規程六条一七号との関係

(一)  第一審被告は本件安全運転は運心、服務規程等に違反し国鉄の企業秩序を破る不当な行為であると主張するのに対し、第一審原告等は右運転方法は国鉄の安全諸規程に合致し、又国鉄交通事故判例の判旨にも合致するものであると主張するので考えるに、成立に争いのない乙第一号証によると、安全の確保に関する規程(昭和二六年六月二八日総裁達三〇七号)の綱領1には「安全は輸送業務の最大の使命である。」と宣言し、同5には「疑わしいときは手落ちなく考え、最も安全と認められる途をとらねばならない。」と定め、又右規程六条は「従事員は常に旅客、公衆、貨物の安全の為に万全の注意を払わなければならない。」同七条には「従事員は作業中自已及び他の従事員に死傷のないように十分注意しなければならない。」同第一六条は「従事員は、車輛、自動車、船舶、線路、信号保安装置等を常に安全な状態に保持しなければならない。危険な箇所を発見したときはすみやかに整備の手配をとらなければならない。直ちに列車又は自動車をとめるか又はとめさせる手配をとることが多くの場合危険をさけるのに最もよい方法である。」同一七条は「列車、自動車の運転(中略)に危険のおそれがあるときは、従事者は、一致協力して、危険をさける手段をとらなければならない。万一正規の手配によつて危険をさけるいとまのないときは、最も安全と認められる措置をとらなければならない。直ちに列車又は自動車をとめるか又はとめさせる手配をとることが多くの場合危険をさけるのに最もよい方法である。」と規定していることが認められる。そこで右安全に関する規程を考慮しつつ本件安全運転の運心等違反の有無について検討する。

1 地本指令一五号は本部指令一七号に基づき同指令にいう要注踏切として(イ)見通し距離一〇〇米以下の踏切、(ロ)時速七五粁以上の速度で通過する踏切、(ハ)交通量特に頻繁(交通量換算八、〇〇〇人)なる踏切、(ニ)その他支部に於て特に危険と認める踏切、と定め、右各踏切を通過する場合には画一的に列車速度を四五粁以下に減ずべきものとしたのである。(三の(五)(六))ところで要注踏切は他の踏切に比し危険性の高いものであり、一般的抽象的には事故発生の虞れのある踏切といえるから、斯る踏切の通過に当つては特に注意して運転する必要があると考えられる。然し凡そ乗務員は運転業務に従事中は常に前方を注視し、踏切その他線路内に人影、車輛等の障害物が認められる等所謂現実の危険の発生した場合には当該障害物の位置、姿勢、挙動その他外部から観察出来る徴表から判断して、その危険性、緊急度に応じた措置(停車、減速等)を講ずべきものであることはいうまでもない。しかも列車は専用軌道を進行するものであり、又高速度交通機関としての機能も充分発揮されねばならないのであるから、前記各踏切の通過に当り現実の危険のない場合にも常に画一的に列車速度を四五粁以下に減速しなければならない必要はない。

なお、第一審原告等は右(イ)乃至(ニ)の踏切を通過すること自体を以て現実の危険と解すべきであり、斯る解釈は高速度交通機関に於ける事実に即した考え方であると主張するが、列車は右の如く専用軌道上を進行するものであり、これを前提として運転取扱心得等が定められているのであつて、右第一審原告等の主張は後記の通り(イ)の踏切については考慮を要するものと考えられるが、(ロ)(ハ)(ニ)の踏切については、その見通し状況如何によつては前記障害物の有無を充分確認出来る場合もあるのであるから、この点を考慮することなく右踏切の通過自体を以て直ちに現実の危険が発生した場合と同視して減速措置を講ずべきものとすることは、高速度交通機関の機能を減殺し徒らに列車を遅延せしめるものである。つぎに(イ)の見通し距離一〇〇米以下の踏切にあつては、乗務員が前記障害物の存在を認識出来るのは原則として列車が当該踏切からの距離一〇〇米以内に接近したとき以後であり(見通し距離とは前認定の通り踏切に於ける軌道の中心から外方五米の道路中央の地点に立つて列車の進来方向に対して見通し出来る最遠地点までの距離であるが、乗務員の側から見れば踏切を横断せんとする障害物等を発見出来る最遠距離というのと大差がない。)そして原審に於ける一審原告高須賀本人の第一回供述によると時速四五粁で進行中の気動車の制動距離は、列車並びに線路の状態によつて異なるが、大体一〇〇米位であることが認められるから、四五粁以上の速度で進行している場合は、右障害物を発見する等危険を認識してからでは、直ちに制動措置を講じても右障害物の手前で停止することは出来ないわけであるから、斯る踏切を通過する場合はより一層慎重な運転方法を講ずべきものと考えられる。唯(イ)の踏切の中第三種踏切の場合は警報機の設置があり列車が接近した場合踏切通行者に対して列車の接近を警告するのであるから踏切事故の可能性は相当程度除去されるものというべきである。従つて(イ)の踏切の中第三種踏切についてはこれを通過の際一律に時速四五粁に減速する必要はないが第四種踏切の場合はこれを通過すること自体現実の危険が発生している場合に準じ時速四五粁に減速することを以て特に不当ということは出来ない。結局前記(ロ)(ハ)(ニ)の踏切及び(イ)の踏切の中第三種踏切については現実の危険の有無に拘らず画一的に時速四五粁以下に減速して通過すべきものとすることは前記安全綱領並びに安全の確保に関する諸規定に合致するものということは出来ず、むしろ斯様に減速することによつて列車の遅延を生じ、「列車は定められた運転時刻により運転するのを原則とする。」との運心二九条一項に違反する結果となるものである。

2 次に地本指令一五号は犬走り以内に人影等を発見した場合は画一的に列車速度を二五粁以下に減速すべきものとしているのであるが、仮令犬走り以内に人影等がある場合でも、その年令、発見位置、動静等から果して衝突又は接触等の危険があるか否かを判断し危険度、緊急度に応じた処置をとるべきものであつて、画一的に二五粁以下に減速することのみが前記安全諸規程に合致するものとはいえず、むしろ要注踏切について述べたと同様の理由により運心二九条一項に違反する措置というべきである。一審原告等は右指令を以て前記越美南線事件及び筑肥線事件の各判決の判旨に忠実に従つたものであると主張するが、前認定(三の(三))の通り越美南線事件の場合は約二〇〇米前方の橋梁渡口附近に児童らしい障害物を認めた場合であり、又筑肥線事件の場合は危険に対する理解と自已防衛の能力のない幼児を犬走り附近に発見した場合であつて、両判決共右児童等の発見位置、年令、挙動等の如何に拘らず犬走り附近以内に居る総ての者に対して警笛を吹鳴して注意を与えるだけでは足りず急停車又は何時でも停車出来る程度に減速徐行する義務があると判示しているものではない。従つて一審原告等の右主張は採用出来ない。

3 地本指令一五号は右12の場合の減速運転によつて列車の遅延を生じても回復運転を行うことは却つて危険であるからこれを行なわないこととしているのである。そして原審証人皆見照一、同中野保恵、同久利正夫、同井内喜久雄、同香川弘文、同吉田軍市、同山口信夫、同米田恒喜、同中島達敬の各証言及び原審に於ける一審原告塩田、同高須賀(第一回)、同清家、当審に於ける同高須賀各本人の供述を総合すると、昭和三六年当時の四国支社管内の列車ダイヤは列車の最高許容速度に近い速度を基準として設定されていたので、各列車とも遅延の回復余力は極めて僅かであつたこと、他方定時運転の要請が強く、遅延の回復が推賞され、運転審査の面でも遅着は早着の二倍減点という扱いがなされ、基準を越えた回復運転が行なわれがちな現場の雰囲気であり、定時の運転が安全の面から望ましい反面、これを強調するあまり無理な回復運転が行なわれる傾向もなかつたとはいえないことが認められる。かような行き過ぎは安全の面では警められるべきであることはいうまでもないが、然し回復運転の可能な列車については「機関士は許された速度の範囲内に於て回復運転につとめなければならない。」(運心五一条)とされているのであり、又原審証人米田恒喜、当審証人古谷健市の証言並びに弁論の全趣旨によると、実際上も当時正常な回復運転が行なわれていたことが認められるから(当審に於ける証人吉田定義の証言及び一審原告高須賀本人の供述中これに反する部分は措信し難い)画一的にこれを行なわないこととするのは右運心の規程に違反するものといわねばならない。

4 ところで鉄道事業の如くこれに従事する職員の職種が複雑多岐にわたる職場に於て業務が安全確実に遂行される為には関係職員の協力一致が必要であり、業務の遂行は統一した指揮の下で実施される必要がある。然るところ原審証人中島達敬、同名波克郎、同皆見照一、同久利正夫の各証言並びに原審に於ける一審原告清家本人の供述によると、本件の如き安全運転は踏切や線路上に於ける障害物との間の事故防止には効果的であるが、右安全運転の結果生ずる列車の遅延が直ちに後続列車や折返し列車に影響し、それが更に他の列車に波及して行くものであつて、その遅延が直ちに衝突等の運転事故に繋がるとはいえないが、列車遅延の規模が拡がり大幅に列車ダイヤが乱れることとなると、そのこと自体運転事故発生の危険性を有することが認められる。従つて本件安全運転の指令は成立に争いのない乙第二号証の二によつて認められる国鉄職員服務規程第五条の「職員は職務を行うに際しては迅速正確を旨として常に関係職員相互間の連絡を図り協力しなければならない。」との規定に違反するものと認められる。

5 徳島、高知両支部に於ける安全運転指令は地本指令一五号の内容を具体化したものであつて、その内容は右地本指令と異なるところはないから、それらが前記運心並びに服務規程に違反するものであることも、右地本指令について述べたところと同じである。

(二)  原審証人皆見照一、同久利正夫の各証言によると、平素機関区、気動車区に於て各現場長等は列車の正常な運行を確保する為、運心、服務規程等に則り、乗務員に対して列車の運転方法についての指導、指示を行なつているのであり、乗務員等も右各規定に準拠し、又現場長らの指導、指示に則つて所謂基準運転を行なつていることが認められる。ところが一審原告等の指令にかかる本件安全運転は、右に見た如く運心、並びに服務規程に違反するものであり、これを強行することはとりも直さず右運心等に従って平素行なわれている基準運転と異なる運転方法を強行することとなるものであり、殊に原審証人米田恒喜の証言によると、列車整理の為、遅延している列車の乗務員に対し列車指令より駅長を介して回復指令のなされることが認められるが、一審原告等のなした本件安全運転指令に於ては回復運転は行なわないこととされているのであるから、右安全運転指令は少くともこの範囲に於て列車指令による運転管理を排除することとなるわけである。而して斯様な事態は一審被告の企業秩序を破る不当、違法な事態であることはいうまでもなく、本件安全運転闘争が、仮令保安設備の改善を要求する為のものであり、乗務員及び公衆の生命身体の安全を確保するという正当な動機目的の為に行なわれるものであるとしても、そのことの故に直ちに右違法な事態を惹起せしめたことに対する一審原告等の責任を阻却するものでないことはいうまでもない。そして斯様に一審被告の企業秩序を乱し、その結果先に認定の如く多くの列車遅延を生ぜしめた一審原告等の行為は成立に争いのない乙第二号証の三によつて認められる懲戒規定六条一七号所定の「著しく不都合な行為」に該当するものと認められる。

七  一審原告等は本件安全運転闘争は組合活動として行なわれたものであるから平常時の個別的な労働関係を規律する国鉄法等の事業法は本件闘争行為には適用はないと主張する。成程事業法は業務の正常な運営の確保を目的とする平常時の個別的な労働関係を規律するものであるのに対し、争議行為は勤労者が一定の要求の貫徹を目ざして団結して労務の提供を拒否する等の行為であるから、事業法の内容と矛盾衝突するものであり、そして争議権は憲法上保障された勤労者の基本的な権利であるから、正当な争議行為である限り、その内容をなす勤労者の個々の行為を禁止乃至制限する事業法の規定はその限りに於て適用を排除される結果となるが、争議行為が違法なものである場合には本来斯る争議行為をなすことは許されないのであるから、これを組成する個々の勤労者の行為も当然事業法による規制を受けるものといわねばならない。

そこで本件安全運転闘争が正当な争議行為であるか否かを検討しなければならないが、一審被告は本件闘争は公労法一七条一項の禁止にふれる違法なものであると主張する。

ところで一審原告等は右公労法一七条一項の規定は憲法二八条に違反する無効のものであると主張するのであるが、右公労法の規定が憲法二八条に違反するものでないことは既に最高裁判所昭和三〇年六月二二日大法廷判決(刑集九巻八号一、一八九頁)及び同四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)の示すところであり、当裁判所も右各判決、殊に後者の判決と同様の理由により右憲法の規定に違反するものではないと判断するので、この点に関する一審原告等の主張は採用出来ない。

そこで進んで前記一審被告の主張について考えるに、公労法一七条一項の規定の趣旨が、公共企業体等の職員のなす具体的な争議行為の中、それが当該公共企業体等の業務の正常な運営を阻害し、且国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な支障をもたらす虞れのある行為に限つて禁止するにあることは、既に最高裁判所判例の示すところである(前記昭和四一年一〇月二六日大法廷判決及び昭和四四年四月二日大法廷判決〔昭和四一年(あ)第四〇一号〕)。そこで右判例の趣旨に従って考察するに、先ず一審原告等は、従来国鉄当局の指導によつて行なわれていた列車の運転方法は安全を無視した違法なものであり、これによる一審被告の業務運営は正常なものではなかつた旨主張するのであるが、従来国鉄当局の指導していた列車運転方法が安全を無視したものであつたことを肯認するに足る証拠はなく、むしろ従来から右列車の運転は前記運転取扱心得、安全の確保に関する規程等に準拠して行なわれ、又各現場長による指示、指導も右諸規程に則って行なわれて来たものであるところ、右諸規程は前認定の通り鉄道輸送に於ける安全の重要性を強調し、又現実の危険が発生した場合の事故防止に必要な諸措置を規定しているのである。唯気動車区等の現場の雰囲気としては定時運転を尊重する空気が強かったことは前に認定の通りであり、それが無理な運転を行なわせる虞れがあったことが推認されるが、これとても各現場長が乗務員に対して定時運転の励行を指示していたに止まり安全を無視してまで定時運転を行うべきことを指示していたものではない。又本件安全運転闘争の行なわれた当時は列車のスピードアップと列車密度の増大並びに自動車の激増等の為踏切事故が増加の一途を辿り列車運転上の危険が益々増大する傾向にあったことは前認定の通り(第三の(一))であるが、これに対して一審被告による踏切保安設備の改善も組合の所期する通りではなかつたとしても順次実行されつつあつたのであり、又列車ダイヤ改正の際はその都度四国支社と四国地本との間でこれについて団体交渉を行いその上で右改正が実行に移されていたのであつて、斯様にして運営されて来た従来の列車運転業務が安全を無視した違法な業務運営の状態であったとは認められない。

そうすると従来の業務運営は列車運転に関する諸規定等に違背するところはなく、正常に行なわれていたというべきところ、本件安全運転闘争により先に認定の通り、多くの列車遅延を生ぜしめ、又列車の一部運転休止の事態を発生せしめたのであつて、これにより、一審被告の業務運営が阻害せられたことは明らかである。又国鉄事業の国民生活に於て、占める重要性を考慮するとき、右の如く多くの列車遅延を生じ、又一部列車の運転休止を生ぜしめるような行為は、国民生活全体の利益を害する虞れのあるものであり、更に前認定の如く、列車の遅延により大幅に列車ダイヤが乱れることは、運転事故を発生せしめる危険性をはらむものであるから、それは国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障を与える虞れのあるものといわねばならない。そうすると、本件安全運転闘争は公労法一七条一項の禁止にふれる違法な争議行為であるから、これについて、事業法の適用がないという一審原告等の主張は採用し難いものである。

八  次に一審原告等は、前記最高裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決が、争議権の制限に違反してなされた争議行為に対しては、刑事制裁は必要やむを得ない場合に限られるべきであると判示していることから、刑事制裁と同視すべき懲戒処分についても同様な制限が存するものと主張する。然しながら刑事制裁は、国家がその社会秩序を維持する為、反社会性のある行為の中、可罰的違法性を具備したものについてのみこれを科することとしているのに反し、懲戒処分は、企業内に於ける経営秩序を維持する為に、当該企業主体によつて科せられるものであつて、両者はその目的、機能を全く異にするものであるから、これを同一に論ずることは正当ではない。従ってこの点に関する一審原告等の主張は採用し難い。

九  又一審原告等は、公労法一七条違反の争議行為に対する制裁は同法一八条所定の解雇に限られるべきであると主張するのであるが、公労法一八条の趣旨は、同法一七条違反の争議行為をした者に対し、国鉄法二九条、三一条等の職員の身分保障に関する規定に拘らず解雇することができるというにあるのであつて、公労法一八条によつて解雇するか否か、又は国鉄法三一条による措置をとるかは、職員のした違法行為の態様、程度に応じ合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである(最高裁判所昭和四三年一二月二四日第三小法廷判決、民集二二巻一三号三〇五〇頁)従つて一審原告等の右主張も又採用することは出来ない。

一〇  懲戒権濫用の主張について。

(一)  凡そ懲戒権はその性質上、企業秩序を維持し業務の正常な運営を確保する為に客観的に見て必要最少限の範囲内に止められるべきことはいうまでもない。そして懲戒に値する行為があつた場合に、これに対して如何なる制裁を課するかは、秩序違反の程度のみならず、その動機、目的、態様のほか、当該職員の秩序違反行為への参加の仕方、当該職員の地位、懲戒処分によつて受ける不利益の程度等諸般の事情を考慮して決すべく、且その処分は右の事情に照し合理的妥当性のあるものであることを要し、若しその裁量の程度を著しく越え合理的妥当性を欠くものであるときは斯る処分は懲戒権の濫用として無効というべきである。

(二)  よつて以上の見地から本件処分の適否につきまず一審原告ら全員に通ずる事実について検討するに、本件闘争の動機については前記三の(一)乃至(七)に認定の右闘争に至る経緯等から窺われる如く、動力車労組中央本部から一審被告に対する申入交渉等の外四国地本においても四国支社に対し度々踏切設備等の改善要求をして来たのに拘らず組合の所期する程度の改善は行なわれず、一方気動車の導入は引続いて行なわれ、自動車の激増と相俟つて列車運転の危険性は高まる一方であつたこと、特に四国支社管内に於ける踏切数、事故件数、踏切状況等が他地区に比し前認定(三、(一)及び(二)、(1))のように劣悪であつたこと、その上前記越美南線事件についての判決に引続いて筑肥線事件についての判決がなされて、乗務員の間に一層不安と動揺を生じた結果、激増する列車運転事故から乗務員、乗客及び一般公衆の生命身体の安全を守り、又乗務員を事故による刑事責任から免れさせるには所謂安全運転の方法により訴える以外にないというつきつめた気持から右闘争をなすに至つたものであり、従つて又、右闘争の目的についても前記五に認定の如く、年末手当要求の性格をも有していたことは否定出来ないけれども、主として運転保安設備の改善要求を貫徹することにあつたものである。この点に関し一審被告は、保安設備の改善に関しては四国支社の労使間で既に充分意見を交換し、殊に昭和三六年九月二六日の協定成立によつて右問題は実質的に解決され、支社は右協定の実現に努力していたのであるから、本件闘争が設備改善要求の為になされたものとすれば著しく労使間の信義にもとるものであると主張するけれども、前記三の(一)(二)に於て認定の如く、設備改善要求については四国地本より四国支社に対して屡々申入れがなされ且これについての団体交渉を重ねて来たのであるが、現実になされた設備改善状況は前記のような危険度の増大に照らすと到底充分なものといえなかつたのであり、右九月二六日の協定についても、その内容は前記認定の通り(三、(二)、4)踏切保安設備について今後共充分努力するとか、車輛の保安設備について更に努力するが当面デイーゼルカー準急にバンバーを取付ける等という程度のものであつて、それ以上特別具体的な改善内容をもつものではなく、又本件闘争時迄における右協定の実施状況についても前記(同右)のとおりであつたのであるから、本件闘争当時保安設備の改善要求に関する労使間の問題が実質的に解決していたものとは到底いえないのである。尤も前認定の通り、右協定成立後四国支社に対して踏切整備費として三、〇〇〇万円が追加配付され、そのことは同年一一月二七日の支社長会見の際、支社長より地本三役に対して説明されたのであるが(右三、〇〇〇万円の追加配付は、原審並びに当審証人村田淳の証言によると、同年度の踏切整備費中の立体交差費六億五、〇〇〇万円の中二億円が同年度中に消化出来ない見通しとなつたので、これを一般踏切整備費にふりむけて各支社〔但し鉄道管理局のない支社〕及び鉄道管理局に配分したものである。)これとても十分な踏切施設の改善等をなし得る額とはいえず、事実右追加予算の配付に拘らず四国支社管内に於ては尚充分な踏切施設の改善が行なわれなかつたことはさきに認定の通りであり(前記甲第一三号証の二、当審証人細川久一の証言と弁論の全趣旨によると、右追加予算による第四種踏切の三種化〔これが踏切改善の主たるものである。〕は一三か所程度に過ぎなかつたことが認められる。)又その後、前記のとおりの筑肥線事件、越美南線事件の判決を契機とする乗務員の不安、動揺、これにつづく運転方法等をめぐる労使の折衝等も結局運転上の保安に関するもので、惹いて踏切の安全施設の問題に関連することは勿論であるから、以上のような経過を考えると、本件闘争を目して直ちに労使間の信義にもとるものとは認め難い。

次は本件安全運転闘争に於ける秩序違反の態様についてみるに、地本指令一五号は国鉄に於ける平素の所謂基準運転と異なる運転方法を指令したものであるが、安全運転を行うべき要注踏切の選定は輸保一〇一号通達と四国支社佐長列車課長補佐の説明を一応の参考として四国支社に於ける踏切警報機設置基準に依拠して地本三役によりなされたのであつて、ただ恣意的に定められたのではないのであり、見通距離一〇〇米以下の踏切の如きは警報機等踏切安全設備が存しない以上、さきに認定のように(七、(一)、1)必ずしも減速を考慮する必要が全くないとはいえないものである。又回復運転を行なわない点についても、前認定の通り(七、(一)、3)、多く回復を期待出来ない反面、定時運転尊重の現場の雰囲気から事故につながる虞れのある無理な回復運転が行なわれ勝ちであつた等の点を考え併せると著しく不当な運転方法を指示したものともいえない。

一方一審被告が四国支社管内に於ける保安設備の改善整備についてなしたところは、前認定の如き気動車の大量導入、自動車の飛躍的な増加等に伴う列車運転上の危険殊に踏切に於ける危険の著しい増加に比して到底充分とはいえないものであった。即ち前認定の如く昭和三三年から同三六年までの間に四国支社管内に導入された気動車の総数は一六一輛という大量に上り、且つこの間の自動車の増加も著しいものがあったのにも拘らず、同期間の同支社の踏切改善費は合計約一億五、五〇〇万円(但し同期間の立体交差費合計七、五〇〇万円を除く)であり又その間の踏切保安設備の改善状況は三、(一)に認定の通りであつたのである。

そして原審証人米田恒喜の証言によると本件闘争当時の気動車一輛の価格は約二、〇〇〇万円であり警報機一台を設置する為の費用は平均約一〇〇万円であることが認められるから、気動車一輛の資金によつて、踏切事故の八三パーセントが発生する第四種踏切二〇か所を第三種踏切に改良することが出来るわけである。従つて現場に於て危険に直面する乗務員等が四国支社管内の危険な第四種踏切(前記佐長列車課長補佐の説明では昭和三六年二月当時で六四か所であるとされている。)に警報機を設置して第三種踏切とすることは左程困難であるとは考えず、踏切設備の早急な改善を要求するのも無理からぬところである。一審被告が公共企業体として予算につき法律上の制約を受ける(国鉄法三九条の二、同条の一六等)のみならず、その設備改善のための投資のあり方についても輸送力の改善、強化を始めその他諸々の要請がありこれ等を総合勘案して決定されるべきものであつて、保安設備の改善のみを重視するわけにはいかないところであるけれども、これ等の点を充分考慮に入れても、上来認定した如き一審被告が四国支社管内に於て本件闘争前後になした安全施設への予算の投入状況並びに施設改善の状況と、前記の如き踏切事故増加等の事実とを対比してみると、一審被告の本件闘争直前頃の安全施設改善状況が適切妥当なものであつたとは断定し難いところである。

そして本件安全運転による列車遅延の程度は前記認定のとおりで総計においては平常の遅延を相当上回るものであるが個々の列車についてみれば最高一〇数分を出ないものである。

(三)  そこで次に一審原告大谷、同阿部、同遠藤、同長戸、同堀川、同藤松の関係について考えるに、同原告等は夫々四国地本徳島支部並びに同高知支部の各三役として夫々同様の立場で略同様の行為に出たもので、その間の責任に軽重の差は少ないと考えられる。即ち同原告等は夫々地本指令一四号、一五号の実施を確認し、徳島気動車区、高知機関区各管内の踏切の中、地本指令一五号にいう要注踏切に該当するものを選定しその他の事項は略右地本指令と同内容のものを各支部指令として発出し、各組合員にその実施を指示したものであるが、その指示も地本指令により細部に亘つて基準の定められていたものをそのままこれに従つて各乗務員に伝達した程度のものに過ぎないと認められる。さきに認定のとおり右両支部の区域は全国的に事情のわるい四国支社管内でも予讃線等に比し安全面では特に条件が悪く、従つて両支部の乗務員は元々日常の勤務から運転の安全について特に強い関心を持っていたものであり従つて四国地本管内においても右両支部のみが安全運転による列車遅延を生ぜしめたこともかような事情が強い要因となつたものと認められ、前記一審原告等の指示指導が特に効果的に行なわれた結果とは認められない。そして又前認定のように右一審原告等乗務員において本件安全運転と年末闘争との関連の意識も強くなかつたことが窺われる。一方原審に於ける一審原告高須賀本人の第二回供述により真正に成立したと認められる甲第二五号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三四号証によると、本件各停職処分によつて右一審原告等の蒙る損害額の総計はかなり高額となり、この中昭和四三年三月三一日までの損害額(停職中の損害額及び停職処分による昇給延伸による損害額)をとつてみても、一審原告大谷は五二万二、五一〇円、同阿部は二一万〇、六六〇円、同遠藤は一一万五、一八七円、同長戸は五九万三、一七〇円、同堀川は一八万九、一四〇円、同藤松は一一万二、四六七円に達することが認められる。

以上のように右一審原告等が本件闘争に於て果した役割が前記の程度に過ぎなかつたこと、前項認定の本件闘争の動機、目的には斟酌を要すべきものがあること、秩序違反の程度その他諸般の事情と本件停職処分によつて同原告等の蒙る右の如き不利益等を考慮すると、一審被告が右一審原告等の本件行為を単に年末闘争の手段であると認定し、右一審原告等各三役の指導を重視し、両支部の特殊事情を充分考慮せずしてなした冒頭認定の如き各懲戒処分は著しく苛酷な処分であり、懲戒権行使の合理的裁量の程度を著しく越え客観的妥当性を欠くものであつて、懲戒権の濫用として無効と解すべきである。

(四)  次に一審原告塩田、同高須賀、同清家についてみるに右三名については前記一審原告等六名とは同一に観察することはできない。即ち前認定のように右一審原告等は四国地本の三役として、所謂三役会議により地本指令一五号の内容たる要注踏切の選定基準及び「線路上又はその附近」の解釈を決定して本件安全運転の内容を具体的に指示し、該指示に基づいて徳島並びに高知支部をして他地本には認められない列車遅延を生ぜしめた点(原審証人名波克郎の証言。尚他地本に列車遅延を生ぜしめたことを認めるべき確証はない)でその責任は他の一審原告等に比し重いものというべきである。右選定基準及び「線路上又はその附近」の解釈決定については先に認定のとおり動力車労組本部の了解を得てはいるもののもともと本部指令一七号はその選定解釈を各地本に任せる幅の広いものであることに鑑みると、四国地本での右選定基準、解釈の決定、即ち右一審原告等の決定が実質上本件闘争による列車遅延等の直接的要因をなしたものというべきである。しかして一審原告塩田は闘争期間中四国地本にあつて闘争全体を掌握し(原審における塩田本人の供述)一審原告高須賀、同清家は右塩田とともに右のように本件闘争の主導的立場にあり、かつそれぞれ徳島支部、高知支部において闘争の指導に当つたものである。(乙第六号証の一、第八号証の一、原審証人井内喜久雄の証言)

以上のような一審原告三名の本件闘争において果した役割、その他前記認定の本件闘争の動機、目的、秩序違反の程度等諸般の事情を総合すれば、同原告等の本件処分によつて蒙る損害の点を考慮しても同原告等に同原告等主張の如き各停職処分を選択したことは特に過重な問責であり、懲戒権の濫用があつたものとは認められない。

尚一審原告塩田は本件闘争に関し本部指令を発出した中央本部の役員等に対する処分がなされていないことと対比し同原告に対する本件処分を著しく裁量の範囲を逸脱したものである旨主張するのであるが、前認定のとおり本部指令は安全運転闘争の極く一般的な基準を示したに過ぎず、右闘争の具体的内容の決定は各地本に一任したものであり、四国地本に於ける本件闘争の具体的内容は前認定の通り一審原告塩田等地本三役に於て決定して実施されたものであり、又右闘争中の個々の指示等も一審原告塩田等地本役員に於て直接行なつたものであつて本部役員が直接指導に当つたわけでもない。要するに四国地本に於ける本件闘争は右一審原告塩田等がその具体的内容を決定し、且同原告等の直接指導のもとに遂行されたものであつて、然も四国地本以外の他の地方本部に於ては安全運転による特別な列車遅延は生じていないのであるから、本件闘争の直接の責任者として一審原告塩田等地本役員のみを問責し、中央本部役員が何等の処分を受けていない(このことは弁論の全趣旨から窺える。)としても直ちに右一審原告等に対する本件処分を目して違法無効のものということは出来ない。

一二  最後に一審原告塩田主張の不当労働行為について考えるに、原審証人名波克郎の証言、原審に於ける一審原告塩田、同高須賀(第一回)同清家各本人の供述によると一審原告塩田は昭和二三年四月国鉄労働組合の多度津機関区乗務員分会長に選任されたのを始めとして同二四年五月同労組四国乗務員会々長、同二七、二八年動力車労組四国地本執行委員長、同二九、三〇年同地本副執行委員長、同三一年五月同地本執行委員長に選任せられ、以来本件闘争当時まで引続きその地位にあつたこと、本件停職処分は当時の四国支社総務部長であつた名波克郎及び支社長、運転部長等が中心となつて決定されたものであるが、右名波総務部長は昭和三五年一二月の松山機関区(動力車労組所属)と松山客貨車区(国鉄労働組合所属)との総合問題の際の不手際から、当時動力車労組から右不手際を追及されたことがあつたこと、又同総務部長は本件闘争前の四国地本と四国支社との間の設備改善要求等に関する団体交渉には殆んど出席していなかつたことが夫々認められるが、本件懲戒処分が右総務部長の個人的な感情に基づいてなされたものとは到底認められないし(原審に於ける一審原告高須賀〔第一回〕同清家、同塩田各本人の供述中これに反する趣旨の供述部分は措信し難い。)又一審原告塩田が活発に組合活動をしていたことが右処分の決定的な動機をなしていたものとも到底認めることは出来ない。その他に本件処分が一審原告に対する不当労働行為を構成するものと認めるに足る証拠はない。従つて一審原告塩田の右主張は採用し難い。

一三  そうとすれば、一審原告塩田、同高須賀、同清家の本訴各請求は何れも失当であるから、一審原告塩田の請求を棄却した原判決は正当であるが、一審原告高須賀、同清家の各請求を認容した原判決は失当であつて同原告等に関する一審被告の控訴は理由がある。次にその他の一審原告等の本訴各請求を認容した原判決は正当であつて同原告等に関する一審被告の控訴は何れも理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九五条、九六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 合田得太郎 奥村正策 林義一)

(別図省略)

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